5月から7月にかけて、テレビではたびたびかわいいカモの巣立ち雛を追いかけます。そのカモとは、十中八九カルガモでしょう。
私たちの生活のすぐ隣で生きるカルガモは、とても身近な鳥の1種です。
バードウオッチングを長く続けていると「なんだ、カルガモか」と軽く捉えがちなカルガモですが、実は不思議な生態がたくさんあるのです。
この記事では鳥の研究で博士号を取得したトリハカセが、
身近すぎるカルガモの知られざる姿に迫ります。
興味のある項目を目次から選んでくださいね。
カルガモの生態:入門編
カルガモ | Eastern Spot-billed Duck | Anas zonorhyncha | カモ目カモ科マガモ属
レア度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(1/10:どこにでもいる)
見られる季節:1年中
見られる場所:低地の水辺
見られる環境:市街地の湖にも出現
餌:主に植物食(植物の葉や種子)だが、昆虫や魚類も食べる。
全長61cmのカモで、日本国内では低地の池、川、湖などに生息しています。
警戒心が薄く、人間が近寄っても飛び立つことはありません。
人間の側で繁殖も行い、可愛らしい雛はテレビなどでも話題にあがりますね。
雛は生まれてまもなく立って歩けるようになります。
そして、雛が産まれた池から近くの河川などへの「引っ越し」の際には、母親が雛を誘導します。
自然は厳しいようで、河川へ移動したあとに少しずつ雛の数が減っていく様子は見るに耐えません…。
カルガモの特徴
改めてカルガモの姿を文章で表現すると、
意外に難しい!ということに気づきました。
特徴を改めて記すのは難しいですが、ベージュ色の顔に目を横切る黒い線、そして嘴の先だけが黄色いカモとして覚えれば識別を間違うことはないでしょう(例外あり、後述)。
オスとメスに模様の劇的な差はありませんが、
オスの方がメスに比べて全身の色彩が濃く、三列風切羽の白色部が狭いといった特徴があります。
つがいを観察した場合には、オスとメスの色彩の差をじっくり観察してみるとよいかもしれません。
カルガモの生態
都市でも田舎でも大丈夫
カルガモは都市や田舎問わず、湖沼や池、市街地の公園内で生活や繁殖します。
繁殖時には7–9個の卵を生み、24–28日温め、孵化後は母親と父親によって守られます。
巣は草やササなどを組み合わせて作った皿状のもので、その直径は30cmに達することがあります。
主に水性植物の葉、茎、根、種子などを食べますが、昆虫や小型の魚類も食べます。
魚類が豊富にいる場合には、体重が大幅に増加するほどに魚類を食べることもあるとか。
婚活パーティーでロボットダンス
カルガモはパートナーを、婚活パーティーとも言えるような方法で決定します。
まだ寒い12月から2月頃、複数のオスが集まり、メスを取り囲む形でアピールを行います。
その際には、首を伸び縮みさせ、尻尾をもちあげたロボットダンスのような行動を見せるのです。
そして求愛ダンスを行い、メスに結婚相手を選んでもらうのです。
割と身近な池などでも、求愛する様子を観察できます!
風物詩:家族で引っ越し!
カルガモといえば、なにより有名なのは雛を連れた引っ越しでしょう!
都市部の池で生まれた数羽の雛を連れて、道路を超え、障害物を超え、川に移動します。
そもそもなぜ川に移動するのでしょうか?それは、都市部の池よりも川に移動することで、天敵に襲われる危険性が減少するためだと考えられています。
そして一直線に川に向かう親鳥の姿をみて「なぜ川の位置がわかるのだろう」と不思議に思うかたもいるかもしれませんが、
鳥たちの空間認識能力は非常に高く、カルガモの親も川までの道のりや方向を日頃の生活のなかで覚えたことが強く示唆されます。
実際に、(カルガモを対象とした研究ではありませんが)鳥たちは地球の磁気、星の位置、匂いから場所を非常に正確に認識していることが示されています。
カルガモの引っ越しは、鳥類が自分の位置を確かめる方法の
不思議が詰まった「ロマンのある」生態観察といえます!
カルガモの分布
カルガモは中国、日本、ベトナムといった東アジアの一部地域のみに生息しています。身近な鳥だと思っているのは、一部のアジア人だけなのです!
一般に留鳥と認識されていますが、一部の個体は渡りを行います。
東京や大阪などでは、冬季にその個体数が多くなることからも渡り鳥であることがわかるでしょう。
北海道では夏のみに観察される夏鳥であり、そうした寒冷地で繁殖する個体が明確な渡りを行うのだと考えられています。
意外すぎますよね!
全世界の個体数は?
1990年代には800,000–1,000,000個体が生存していると推定されていましたが、
現在その個体数は減少傾向にあるようです(リンク:IUCN)。
2000年代以降には個体数推定は行われていないため、研究が待たれています。
アカノドカルガモ
カルガモの識別で注意が必要な点があるとしたら、類似したアカノドカルガモの存在でしょう。
2016年、沖縄県池間島でアカノドカルガモが記録されました。
1980年代にも沖縄県与那国島で記録されたりしているようで、稀に日本で観察されるようです(しかし、これまで数例の記録であり、日常的に注意が必要ではありません)。
アカノドカルガモは顔が赤っぽく、体が一様に薄いベージュ色であることが特徴です。
日本でアカノドカルガモを見る機会はほぼゼロに近いです。
和名の由来
カルガモは漢字で書くと「軽鴨」と書きます。
しかし、明らかに他の多くのカモと比べても大きいです。なぜカルガモという和名がついたのでしょうか。
カルガモは古来「くろがも」という名前で呼ばれていたそうです。
その「くろがも」の音がなまって、いつのまにか「かるがも」になったんだとか。ちょっと意外ですね。
鳴き声
「グエッ グエッ」といかにもカモ(というかアヒル?)という声でなきます。
鳥博士のメモ
わたしたちはあまりに見慣れてしまっているカルガモですが、
この地球のほとんどの地域には生息しない実は珍しいカモなのです。
ある地域ではあまりに普通種である一方、世界的には珍しい鳥類というのは、その研究があまり進んでいないこともありますが、
カルガモはその1つの代表例とも言えるかもしれません。
参考文献
・羽田 (1975) 野鳥の生活I. 築地書館, 東京.
・清棲 (1978) 日本鳥類大図鑑. 講談社, 東京.
・中村・中村 (1995) 原色日本野鳥生態図鑑 陸鳥編. 保育社, 東京.
・真木・大西 (2000) 日本の野鳥590. 平凡社, 東京.
・大橋 (2003) 鳥の名前. 東京書籍. 東京.
・The Cornell Lab of Ornithology (2023) Birds of the world.
・IUCN (2023) The IUCN red list of threatened species
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