日本各地で繁殖するモズの仲間のなかで、最も珍しい種の1種が、アカモズです。
かつての日本では普通に見られる繁殖鳥でしたが、現在ではなんとその個体数はなんと200羽ほどだと見積もられています。
2023年8月、人間環境大学の発表(プレスリリース)によれば、アカモズ9羽の人工孵卵・育雛が成功しました。今後のアカモズの未来はどうなっていくのでしょうか?
この記事では博士号をもつトリハカセが、
美しいアカモズの興味深い生態を紹介します。
記事は結構長いので、興味のある項目を目次から選んでくださいね。
アカモズ入門編
アカモズ | Brown shrike | Lanius cristatus | スズメ目モズ科モズ属
レア度:★★★★★★☆☆☆☆(6/10:恵まれた限られた環境にしかいない)
見られる季節:夏
見られる場所:本州および北海道の一部地域の平地から山地(標高1,500m以下ほど)
見られる環境:疎林や、低木のある草原など
餌:昆虫や小型の無脊椎動物
アカモズは全長17–20cm、体重27-37gと中型の小鳥です。モズの全長が19–20 cm、体重34–52gですから、ややスリムな体型をしたモズということがわかります。
4亜種のうち1亜種(亜種アカモズ)はサハリンから日本にかけて繁殖し、かつては特に東日本で比較的普通に見られる夏鳥でした。
現在までにその数は減り続け、現在では亜種アカモズは滅多に見ることができない鳥になってしまっています。
チゴモズと並んで、国内での絶滅が危ぶまれている鳥です。
亜種アカモズの写真が少ないので、本記事の写真は亜種シマアカモズが中心です。
アカモズ生態
意外と広い分布域
アカモズの種としての分布はそれなりに広く、西はインド(ただし、越冬期)、東は日本(繁殖期)にまで及びます。※東西に渡りをするわけではないです。
通年見られる地域は中国頭部の一部地域に限られ、それ以外の場所では夏または冬に見られる渡り鳥です。
先述した通り、亜種アカモズは東日本に多いですが、現在では北海道や長野県など一部の地域のみに繁殖地が点在するのみとなっています。
亜種シマアカモズも日本で見られますが、本土(本州、四国、北海道など)で繁殖は行いません。
ヨーロッパで迷鳥として記録されたこともあるらしいです。
限りある餌
アカモズの餌は、動物が主です。つまり、昆虫類やクモなどの節足動物、トカゲなどの小型の脊椎動物が主な餌です。
またモズ同様に、稀に小鳥も餌とすることがあるようです。
捕獲した餌はその場で消費することに加えて、「はやにえ」を作り保存し、のちに食べることもあるようです。
The・肉食の小鳥 という感じでしょうか?
ライバルはモズ?
アカモズが繁殖するような疎林や、樹木が点在する草原を狙う鳥は他にもいます。そう、モズです!
アカモズとモズは食べる餌もそっくりで、好む環境も似ている「ライバル」です。
そして実際に両種のあいだには「種間なわばり」が作られることがわかっています。
「なわばり」は、同種のあいだで作られることがほとんどです。
石城(1966)によれば、モズとアカモズのどちらか片方が強いということはなく、拮抗した関係を築くのだとか。どうやら本当に良いライバルなようです。
ほかにも、チゴモズ、オナガ、ヒヨドリに対しても、縄張りに近いた場合に激しい攻撃を加えることが羽田(1975)に述べられています。
鳥界のイクメン?
5月からスタートする繁殖期には、一夫一妻で子育てを行います。
4-6個の卵を2週間かけて雌が温めます。そのあいだも、オスはメスに餌を運んだりと大忙しです。
14日間の育雛期間を経て、ヒナたちは巣立っていきます。この間も、雌雄で餌を運びます。
巣立った子供たちは、オスとメスが二分して引き連れ、餌を運んだりします。夫婦で大いに協力して子育てを行う鳥なのです。
モズの仲間は、オスも育雛などに直接関わります。
姿が全く異なる亜種
アカモズは4つの亜種に分けられます。日本で主に見られるのは、2亜種です。
それは、日本で繁殖する亜種アカモズに加えて、渡りの時期に南西諸島を通過する亜種シマアカモズです。
ほかの2亜種のうち、亜種カラアカモズや亜種ウスアカモズは渡り時期に離島部でそれらしき記録があり、日本鳥類目録第七版では「日本の鳥か検討中」という扱いを受けています。
トリハカセは亜種カラアカモズ、亜種ウスアカモズを
観察した経験はありません。見たい!
オス成鳥の識別点は図鑑等に述べられている通りですが、幼鳥や雌などの識別は超絶難しいです(スズメ目のなかではムシクイ類の種識別並みに難易度が高いと思います)。
亜種アカモズ
日本国内とロシア極東部サハリンなどでのみ繁殖する亜種で、4亜種のなかで最も赤色味が強いのが特徴です。
先述の通り、繁殖場所は日本、ロシアのサハリンなどです。越冬期は中国南東部、インドシナ半島、スマトラ島などで生活します。
亜種シマアカモズ
北東中国、韓国、南西諸島、そしてモンゴルなどで繁殖し、越冬期には中国南東部、台湾、フィリピン、ボルネオなどで越冬します。
全体に褐色味が薄く、特に体上部の灰色味が強いことが特徴です。
なんといっても、秋の渡りの時期には先島諸島(石垣島・与那国島など)を大量の個体が通過していきます。
亜種カラアカモズと亜種ウスアカモズ
残る2亜種は、より大陸の内陸で生活しています。モンゴルやロシア東部などが主な繁殖地であり、越冬期にはカラアカモズはインド、ウスアカモズはマレー半島などに渡るようです。
越冬と繁殖域をつなぐ線を描いたとしても、日本はその線上には位置しません。これが、両亜種が日本で滅多に見られない理由の1つであることは疑いようがないでしょう。
少し前まではモウコアカモズも同種だと考えられていましたが、
遺伝的な解析の結果、近年は別種として扱われています。
絶滅の危機の実態
全国繁殖分布調査の結果、アカモズとチゴモズは日本で最も分布域を縮小した種の1つであることがわかりました。
かつては東日本を中心として日本の各地で繁殖していたアカモズですが、現在その姿を見ることができる場所は日本のほんの限られた場所のみです。
個体数は激減!
Bird Conservation International(直訳:鳥保全インターナショナル)に2020年に掲載された論文(Kitazawa et al. 2020)は驚くべきことを明らかにしました。
それは、現在日本国内で繁殖するアカモズはたったの149つがいであり、ここ100年のあいだにアカモズの分布域は90.9%も減少したというのです。
この研究によって、日本のアカモズは本当に絶滅の寸前だということがわかったわけです。
悲しいことに、個体数が激減した種(正確には個体群)では、雌よりも雄の方が割合が高くなります。
その結果、悲しいことに、繁殖地に到着するのが遅れたオスはつがいを作れない問題が発生しており、アカモズは大きな危機に直面しています(Mizumura et al. 2022)。
現在の保全策は?
こうした危機的な状況をうけて、複数の大学や研究者などが連携し、アカモズが生息する場所での保全(域内保全)はもちろんのこと、アカモズを安全な施設に移しての保全活動が開始されました。
生息する場所での保全は「域内保全」、
施設などでの保全は「域外保全」と呼ばれます。
国内の例を挙げると、絶滅危惧種ライチョウの域外保全が成功を収めつつありますね。
また「自然から施設にもっていくなんて可哀想!!」と思う心優しい方もいるかと思いますが、このような方法(域外保全)をとらなければ小笠原諸島のカタツムリはこの地球上から姿を消していた、なんて例もあります。
域外保全をこれほど早く開始し、成功に至る研究者や関係者の努力は想像を遥かに凌駕するでしょう…。
モズとの識別点
そんな貴重なアカモズの新たな繁殖地を見つけたい!なんて思った場合、正確に識別できるでしょうか?
国内で識別を誤る可能性のある「普通種」としては、モズが挙げられます。
モズとの識別点は以下です。
・(オス)アカモズの背中は赤色味が強く、お腹が真っ白に見える。
・(メス・幼鳥)過眼線の暗色がはっきりする(モズは赤褐色でぼやける)。
・(両性)アカモズの方が尾羽が長く見える(モズはずんぐりむっくり)。
・(両性)過眼線と東部の褐色の間の白色が顕著(モズは入らない、または入っても少し)。
あり得るの?雑種形成の謎
カモ類と同様に、モズの仲間はそれなりに雑種を作ることが知られています。
アカモズについては、亜種間での交雑が知られているほか、チゴモズといった別種と子供を作り、巣立たせることがあります。
今西ほか(2007)では、長野県においてチゴモズとアカモズが雑種を作ったことが報告されるなど、国内でも引き起こされている案外身近な出来事なのです。
鳴き声
鳴き声はほぼモズです。モズ同様に他種の鳴き声を真似る「サブソング」を歌ったりしますが、
基本的につがいが形成されるまでの期間限定であるようです。
アカモズの将来
今後、アカモズの将来はどうなっていくのでしょうか?研究者らが、その未来のために奮闘しています。
日本全国スケールでの野外調査だけでなく、施設での飼育など、多様な手段から保全を推し進めています。
現在研究費を集める活動などは行なっていませんが、過去にはクラウドファンディング形式の資金集めなどを行なっていた例もあるようです。
ぜひ次の機会には、あなたも絶滅危惧種アカモズの研究推進に直接的に協力してみてはいかがですか?
参考文献
・羽田 (1975) 野鳥の生活I. 築地書館, 東京.
・清棲 (1978) 日本鳥類大図鑑. 講談社, 東京.
・中村・中村 (1995) 原色日本野鳥生態図鑑 陸鳥編. 保育社, 東京.
・真木・大西 (2000) 日本の野鳥590. 平凡社, 東京.
・大橋 (2003) 鳥の名前. 東京書籍. 東京.
・石城 (1966) モズとアカモズのなわばり関係について. 日本生態学会誌, 16: 87-93.
・今西ほか (2007) 雄アカモズと雌チゴモズの種間つがいとその雑種. 山階鳥類学雑誌, 38: 90-96.
・The Cornell Lab of Ornithology (2023) Birds of the world.
・IUCN (2023) The IUCN red list of threatened species.
・Harris & Franklin (2000) Shrikes & Bush-shrikes. A & C Black, London.
・Kitazawa et al. (2022) Drastic decline in the endemic brown shrike subspecies Lanius cristatus superciliosus in Japan. Bird Conservation International, 32: 78-86.
・Mizumura et al. (2022) The endangered Brown Shrike subspecies Lanius cristatus superciliosus has a male-biased sex ratio and only early arriving males are paired. Bird Conservation International, 32: 87-94.
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