漆黒の体に、赤と黄色のド派手な嘴という一度見たら忘れることのない見た目をしているバン。
意外なほど身近に生息している鳥ですが、図鑑を見れば見分け方は述べられていますが、
その生態についての情報は詳しく紹介されていません。今回の記事はそんなバンの生態や世界スケールでの分布についてです。
バンの生態と特徴:入門編
バン | Common Moorhen | Gallinula chloropus | ツル目クイナ科バン属
レア度:☆☆☆☆☆☆☆☆★★(2/10:身近ですこし探すと見つかる)
見られる季節:北日本では夏、それ以外は通年
見られる場所:湿原
見られる環境:池、沼、ダムなどの水辺の周縁部
餌:雑食(藻類や昆虫など多岐にわたる)
バンは全長は30–38cmで、体重は190–500gもあるハトほどのサイズの鳥です。
体重はオスで250–500g、メスで190–350gと雌雄で大きな違いがあります(野外で見分けるのは難しいでしょう)。
全身が光沢のある漆黒で、足が黄色、嘴が赤と黄色、お尻に白い模様があるのが特徴です。
水辺を好み、自然にできた湖や人工の溜池の周辺に植生が成立した場所で頻繁に見られます。
日本では全国で見られますが、北日本では夏鳥です。
バンの生態
多様な餌
バンは本当になんでも食べます。まずは藻類、そして植物の葉、種子、果実、花を食べます。
動物性の餌ではミミズ、軟体動物、甲殻類、昆虫、クモ、小魚、時には鳥類の卵も食べてしまいます。また腐肉、野菜クズなどのゴミ、カモの餌、魚の餌も食べます。
加えて、カンムリカイツブリなど同じ環境で生きる鳥たちがとってきた餌を横取りすることもあるのです。
実は食い意地を張って生きるたくましい鳥なのです。
ユニークな繁殖生態
バンは繁殖生態も実はとてもユニークです。
必ずしも夫婦で繁殖するのではなく、1羽のメスと2羽のオスからなる3羽のグループや、数羽のメスと1羽のオスのグループで共同繁殖することがあります。
グループ繁殖の場合は、全員が協力して巣を作ったりするようです。
卵は2–17個です。夫婦の巣(1羽のオスと1羽のメス)の卵の数はほとんどの場合5–9個ですから、10個を超える場合には、1つの巣に2羽のメスが産卵したと考えることができます。
生まれた雛は約2週間親から餌を貰います。3週間目には自分で餌を探せるようになりますが、7週間目くらいまでは親が餌を与えることもあります。
ちなみに、バンの夫婦関係は数年に渡って維持されることもあり、そのあいだ夫婦の縄張りがずっと維持されることもあるとか。
行動とお尻の白さ
バンは驚いた際に、白いお尻をこちらに向けて薮の中に逃げ込みます。
その際には、わざわざ尾羽を上にあげて白いお尻を見せつけるのです。
この行動の理由については諸説ありますが、白いお尻を捕食者に見せつけることによって「お前をもう気づいているから、襲ってくるなよ」とメッセージを送っている可能性があると言われています。
ぜひ次バンを見つけた際は、去り際までその行動をじっくりと観察してみてください。
バンの分布
日本国内の分布
バンは日本全国の水辺に分布します。
北日本では夏鳥ですが、福島県や茨城県では越冬する個体もそれなりにいるようです。
それより南の地域では周年バンを観察することができます。
バンの分布を考えるうえで重要なのは、冬場にその水辺が凍るのかという点です。
水が凍ってしまうと、その場所の餌を利用できなくなってしまうため、バンは移動せざるを得ないのです。
世界で分布拡大中!
バンは日本だけでなく、ユーラシア大陸にひろく分布します。
その分布はアフリカ大陸の南端からヨーロッパ全土、インド、マレーシアにまでおよびます。
そしてバンは世界でその分布を拡大させているのです。興味深いですね。
その場所はヨーロッパ北部で、フィンランドなどの北欧では、19世紀になりその分布を拡大させたとか。
現在ではそれらの地域ではほとんどの個体が夏のみにみられ、ごく少数が越冬します。
その一方で南北アメリカ大陸や、オーストラリア大陸には分布していません。
国内では減少中
全国鳥類繁殖分布調査の結果、バンは近年個体数を減少させていることがわかりました。
その原因としては生息環境の悪化が挙げられています。
バンはこれまで狩猟鳥として指定されていましたが、調査結果をうけて狩猟対象の種から外されることになりました。
名前の由来
「バン」という名前は驚くほど単純で「田んぼの番(バン)をしている鳥」ということから「バン」と呼ばれるようになったとか。
いつも水辺にいるからこそつけられた名前なようです。
ちなみにオオバンは昔から「おおばん」バンは昔は「こばん」と呼ばれていたそうです。
鳴き声
葦原から細い声で「クルッ!」と鳴きます。
冬場に似た環境にいるクイナはもっと鋭い声で「キッ キッ キッ キッ」と一定間隔で鳴いたりすることから区別できます。
鳥博士のメモ
一見すると地味なバンですが、その生態はほかの鳥よりもずっとユニークで、知れば知るほど興味を惹かれる鳥なのです。
分布を拡大していることについて触れましたが、日本国内ではバンの親戚とも言える「オオバン」が個体数を近年増やしていることが知られています。
クイナ科の鳥たちによるユーラシア大陸の分布拡大は今後も続くのかもしれません。
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