石垣島、与那国島、西表島といった南西諸島で非常に稀な記録があるハイイロオウチュウ。
枝にとまるシルエットは、日本で見られるほかの鳥にはない独特なものであり、一度は見てみたいと思うバードウォッチャーも多いことでしょう。
今回はそんなハイイロオウチュウの生態を詳しく紹介していきます。
ハイイロオウチュウ入門編
ハイイロオウチュウ | Ashy drongo | Dicrurus leucophaeus | スズメ目オウチュウ科オウチュウ属
レア度:☆★★★★★★★★★(9/10:日本で数例-数十例の記録がある)
見られる季節:春や秋の渡り時期に記録が多い
見られる場所:主に南西諸島(与那国島、石垣島、西表島など)
見られる環境:森林に生息し、特に林縁を好む(つまり農道などでチャンスがある)
餌:昆虫食
ハイイロオウチュウは約10亜種が知られていますが、日本で稀に見られる亜種leucogenisは体長23–26cm、体重約30gの中型の鳥類です。
体長はヒヨドリくらいですが、体の半分は長いその尾羽であり、体重はヒヨドリの半分以下です。スラッとして見えるわけですね。
ハッキリ言って激レアであり、離島に行ったからといって高確率で見られるような鳥ではありません。
餌は飛行する昆虫であり、飛びついて虫を農道などで採食している場面に出会えればラッキーです。
ハイイロオウチュウの生態
分布域
日本には分布せず、稀に迷って飛んでくる(迷行する)だけですからとてもレアな鳥に思えますが、
ユーラシア大陸南東部に広く分布します。具体的には、タイ、カンボジア、マレーシアといった東南アジアでは周年見られ、
中国では国の東半分のエリアで繁殖しています。インドはほぼ全域が越冬域になっているほか、ネパールのヒマラヤなども繁殖域になっています。
日本で稀に見られる個体は、形態的な特徴から中国で繁殖する亜種であると推測されています。
東南アジアから中国に渡りを行う際に南西諸島を通過したり、ルートを間違って日本にやってきてしまうのでしょう。
日本での記録は増えているの?
まず、日本においてハイイロオウチュウは西表島で1976年4月に初めて記録されました。それ以降、日本のさまざまな場所で記録されるようになり、
北海道、本州、九州など幅広い場所で記録されています。首都圏でも記録があり、2021年にはさいたま市でも記録されました。
結論から言えば、ハイイロオウチュウの記録は増えています。しかし、日本を訪れる個体の数が増えているかを決めるのは時期尚早かもしれません。
なぜなら、珍鳥情報がSNSなどを通じて拡散されやすくなった、珍鳥の知識をもったバードウォッチャーが増えた、一眼レフカメラが普及し記録が残りやすくなったといったことが、記録が増えている理由かもしれないからです。
一方で、暖かい場所に生息する鳥たちの分布域は、気候変動に伴い北上したり拡大したりしつつあることも研究からわかっており、ハイイロオウチュウの日本における個体数が本当に増えている可能性も否定できません。
生息環境
低地から標高3,000mにかけたひろい標高帯で繁殖します。山麓,針葉樹林の林縁部,広葉樹林,落葉樹林の混交林といった森っぽい環境が生息地です。
森林の内部というよりは林縁や、木がまばらに生えたような森を好みます。
ボルネオ島やマレー半島では、住宅地でも見ることができるような身近な鳥であるようです。
越冬期には森以外にも、ひらけた平原の木立などを訪れたりもするようです。
日本の離島では、森林の林縁や農地の電線などにとまり、昆虫をフライキャッチする際に「なんだあの尾羽の長い鳥は」と気づかれることが多いのではないかと思います。
繁殖生態
1年に1回繁殖し、かなり厳密な縄張りを構築します。
縄張りを構築する時期はものすごく攻撃的であり、同種だったり捕食者だったりをかなり攻撃します。
この傾向は渡り時期には見られず、国内で観察する際には穏やかな姿だけを目にするはずです。
2−4卵を産みますが、その卵の色にはかなり変異があり、ラベンダー色から真っ白なものまであるとか。なぜそのような変異があるのか、その意義はわかっていないようです。
ちなみにハイイロオウチュウの巣はときおりセグロカッコウに托卵されます。どの国でもカッコウは厄介な存在なようです…。
餌
ハイイロオウチュウは、花の咲いた樹木のそばにとまり、花を訪れる昆虫を狙ったりするようです。
はじめに述べた通り昆虫食であり、飛行する昆虫がメインですが、アリなども食べます。
私が南西諸島で観察したときには、トンボを追いかけて飛行している様子を観察しました。
驚くことに稀に小鳥も捕食することがあるんだとか!!ヨーロッパムシクイや、ヒメコノハドリの仲間が食べられた記録があるようです。
ハイイロオウチュウの特徴
亜種間で異なる姿
日本ではハイイロオウチュウ、英語でもAshy(灰色の)drongo(オウチュウ)という名前がついていますが、
そのような姿をしているのは中国東部などで繁殖する亜種D. L. leucogenisやD. L. salangensisに限られます。
中国南部にやヒマラヤで繁殖する亜種は、全身が真っ黒で、一見すると別種のようにも見えます。
日本では(おそらく)この黒色タイプの亜種は記録されておらず、今後発見されれば非常に貴重な記録となるでしょう。
鳴き声
鳴き声は複雑で、おしゃべりしているように聞こえます。「ヒコ、ピコヒコヒコ」とちょっと角張った声で鳴きます。
繁殖地で記録されたさえずりもおしゃべりをしているような雰囲気で、日本で近い声は(外来種ですが)ガビチョウかもしれません。
鳥博士のメモ
管理者らはこれまでさまざまな南西諸島の離島を訪れましたが、1度しか日本で観察できたことはありません。
しかし石垣島ではほぼ毎年のように観察されている種であることもまた事実であり、
ハイイロオウチュウの渡り時期に南西諸島を訪れることに加えて、好む環境をしっかりと学ぶことで、出会える可能性は格段にあがるかもしれません。
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