スズメはこの地球上で最も人間との結びつきが強い鳥かもしれません。
私たちの住居のまわりを見渡せば、可愛らしいその姿を確認することができるでしょう。
しかしその可愛らしい風貌とは一風変わり、その生態を深掘りすると恐ろしい一面が隠されています。
また私たちの身近な鳥であるはずのスズメは、近年その数を減少させていることがわかってきました。
今回は知っているようで知らない、スズメの意外な姿を紹介していきます。
この記事ではスズメの生態をさまざまな研究分野から深掘りします。
興味のある項目を目次から飛んでくださいね。
スズメの生態:入門編
スズメ | Eurasian Tree Sparrow | Passer montanus | スズメ目スズメ科スズメ属
レア度:★☆☆☆☆☆☆☆(1/10:身近で見られる)
見られる季節:1年中
見られる場所:日本中の住宅地
見られる環境:とにかく人の生活の近くを好む
餌:穀物が大好きだが、雑食(穀物のほか、昆虫を好む)
特徴については説明不要でしょう。
私たちが日々目にする、ほっぺに黒い斑点のある、黄土色の鳥です。
羽の模様からオスとメスを区別することはできず、基本的にどの個体も似たような模様をしています。
日本でスズメは人の生活の近く、とくに住宅地を主な生息地にしています。
人家のかわらの隙間など、住宅の構造を生かして繁殖を行い、世代を繋いでいるのです。
スズメの生態
人間のそばで生きる
スズメは、人間の居住地を離れると、極端にその数が減少します。人の生活の近くを好む種なのです。
例えば、廃村になったエリアからはスズメが姿を消すことが知られています。
その理由については現在も議論が続いているところですが、住宅が優れた営巣場所になることや、ヒトの存在そのものが捕食者避けとして役立っているのかもしれません。
そんなスズメとヒトの関係は稲作文化が構築された太古から続いてきたと考えられています。
スズメによって、生活するうえで人間は不可欠な存在なのでしょう。
高い繁殖力と農業
スズメは水田や畑で餌を食べながら、毎年数回の繁殖を行います。
子供には主に昆虫を与えて育てますが、親鳥は穀物が主食の1つです。
それゆえに、せっかく育てたお米をスズメに食べられてしまうこともしばしばです。
そうしたスズメによる食害は、大昔から人間を悩ませてきました。
1958年、そうしたスズメの食害に怒った中国の国家主席は「スズメ打倒運動」を開始し、800,000羽のスズメが駆除されました。
しかしその結果として、害虫が大量発生し、中国の農業は大打撃を受けました。
1962年にスズメ打倒運動が終わると、数年のうちにスズメはもとの個体数まで数を回復させたとか。
このエピソードは、スズメの農業への貢献や、高い繁殖力を如実に示しています。
残虐な一面も:ご近所さんの巣を荒らす
可愛らしいスズメですが、恐ろしい一面ももっています。
それは、繁殖期にご近所の家に忍びこみ、巣のなかにある卵を捨ててしまうことがあるのです。
この「ご近所の卵排除」行動は、その巣を奪おうと狙っている個体や、ご近所で繁殖する他のライバル個体にとって利益になるために行われている可能性があるようです。
可愛らしい姿に似合わず、厳しい自然界で生きていくためのたくましい術をもっているようですね。
実は、そんなに怖い一面があったなんて…驚きですね。
日本における個体数の減少
スズメは日本で数千万羽(推定値は1,800万羽)いると推定されています。
とても身近にたくさん生息しているため、減少とは無関係のように思えます。
しかし近年、日本では特に都市部を中心としてスズメの減少が引き起こされているのです。
特に、都市部では繁殖の成功度が低いことがその原因であるようです。コンクリートに囲まれたエリアで繁殖することは、餌を探したりするうえでも大変なのだと考えられています。
また、最新の住宅が隙間の少ない構造であることも影響を与えている可能性があるのです。
現在のスズメの個体数は,1960 年ごろと比較すると10%程度まで減少したと推測されており、実は非常にマズイ状態です。
似たような事例はイギリスでも報告されており、近代化と共にスズメは姿を消していっているようです。
(ただし最近は個体数が回復傾向にあるとか。競争相手である別種イエスズメのいない農村部に侵入し数を増やしたとかで、日本とはまた状況が異なるようです)
アメリカに侵入中
日本における減少とは正反対の事例がアメリカで報告されています。
スズメは現在進行形でアメリカにおける分布を広げ、個体数を増やしているのです。
しかし、元来アメリカにはスズメは生息していません。
発端はおそらくペットとして飼われていたスズメが野外に逃げ出したことによるもので、いわゆる外来種として繁栄しつつあるのです。
毎年記録される地点が増えているとかで、数十年後には北米全土で観察されるようになってしまうかもしれません。
在来の種の生息を脅かす可能性もあり、今後の状況を注意深く観測していく必要があるでしょう。
外来種となったスズメは相当に手強そう!
鳴き声
これも説明不要ですね。「チュンチュン」とお互いが鳴き交わし、繁殖期以外は群れで生活しています。
実は色々な種が!
日本国内で見ても、実はスズメの種数は1種ではありません。
例えば、日本には同じスズメ属に分類されるニュウナイスズメが農地などに生息しています。
また海外ではイエスズメ、スペインスズメなど、30種を超えるスズメの仲間が記録されています。
ちなみに、イエスズメとスズメに限って話をすれば、イエスズメがいる場所でスズメは生活することができず、数が減少することが知られています。
力関係があるのか、ヨーロッパでは都市部にいるのはイエスズメであり、スズメは都市の周辺部で生きています。イエスズメは強いようです。
そのためか、イエスズメの英名は「House Sparrow (家のスズメ)」、スズメの英名は「Eurasian tree sparrow(ユーラシアの木にいるスズメ)」と、日本人のイメージとは異なる名前がつけられています。
スズメとスペインスズメの関係も興味深いため、機会を作って、スズメの仲間特集は記事を書こうと思います。
鳥博士のメモ
身近におり、なんとなく見慣れてしまっているスズメですが、実はとても奥深い生態をもっているんですね。
また、イエスズメは1980年に北海道の利尻島で記録され、それ以降何度か記録例があります。
もし今後イエスズメが日本に定着してしまった場合、私たちが家の近くで見る見慣れた姿は、なかなか見られなくなってしまったりするのでしょうか。
また、なぜ分布域の広いイエスズメは日本には定着できなかったのでしょうか。気になることはたくさんです。
参考文献
・真木・大西 (2000) 日本の野鳥590. 平凡社, 東京.
・大橋 (2003) 鳥の名前. 東京書籍. 東京.
・三上 (2009) 日本におけるスズメの個体数減少の実態. 日本鳥学会誌 58: 161–170.
・三上 (2009) スズメはなぜ減少しているのか? 都市部における幼鳥個体数の少なさからの考察. バードリサーチ 5: A1–A8.
・The Cornell Lab of Ornithology (2023) Birds of the world.
・IUCN (2023) The IUCN red list of threatened species
・Kasahara et al. (2014) Conspecific Egg Removal Behaviour in Eurasian Tree Sparrow Passer montanus. Ardea 102: 47–52.
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