日本に生息するスズメは1種ではありません。
意外にも私たちの身近な環境に「ニュウナイスズメ」という別のスズメが生息しています。
住宅地では見られないニュウナイスズメは、実は昔から日本人にとって馴染み深い鳥なのです。
今回は意外にもスズメと生態が大きく異なるニュウナイスズメの生態を紹介します。
ニュウナイスズメの生態:入門編
ニュウナイスズメ | Russet Sparrow | Passer rutilans | スズメ目スズメ科スズメ属
レア度:☆☆☆☆☆☆☆★★★(3/10:適切な時期に自然がある場所で探すと見つかる)
見られる季節:1年中(関東以北は夏、関東以南は冬)
見られる場所:北海道から沖縄までで見られる
見られる環境:繁殖は森林、越冬は農耕地
餌:主に植物食だが、昆虫も食べる
私たちの身近にいるスズメとは異なり、ニュウナイスズメは住宅地ではほぼ見られません。
スズメと似ていますが、住宅で繁殖するスズメとは異なり、ニュウナイスズメの繁殖地は森林です。
少し標高が高い森林や、日本でも北の方の森林に渡りを行い、繁殖をするのです。
また冬には人里のちかくまで移動しますが、主な生息地は田畑です。
農作物であったり、雑草の種子を食べて生きるのです。時に農耕地で大群になることもあります。
そういった生態ゆえに、なかなか身近では見られないのです。
ニュウナイスズメの特徴
ニュウナイスズメの特徴は、何より赤っぽい色をしていることです。
英名のRusset sparrowは「赤褐色のスズメ」という意味であることからも、重要な識別点であることがわかります。
一方メスは赤色味がありませんが、全体に黄色味が強いことや、頬に黒い斑点がないことからスズメと識別することができます。
羽の模様からオスとメスを区別することができないスズメと異なり、ニュウナイスズメはオスとメスで色彩が異なる点も大きな特徴です。
ニュウナイスズメの生態
農地や森林で生きる
ニュウナイスズメは、東は日本、西はインドと、東アジアに生息しています(IUCN分布図)。
そして繁殖期にはすこし標高の高い森林、越冬期には低地(農耕地や草原)で生活します。
日本国内でも夏に見られる地域(関東以北から北海道)、冬に見られる地域(関東以南から沖縄)と季節的に分布が変化します。
つまり、短い距離ではありますが、緯度方向や標高間での渡りを行うのです。
周年同じ場所で生活するスズメとは異なり、ニュウナイスズメは渡り鳥なのです。
主な餌は繁殖期には昆虫、越冬期には穀物です。
不思議な名前の由来
「ニュウナイ」とはどういう意味なのでしょうか。
本種は、江戸時代から「にふないすずめ」という名前で知られてきました。
にふないとは、 新嘗(にいなめ:新しい穀物)を意味し、ニュウナイスズメが新しい穀物を食べることを好むので、そう呼ばれていたとか。
朝廷のあった西日本では、冬に農耕地にやってくることも関連しているのかもしれません。
一方で、歌人の藤原実方の魂がニュウナイスズメに化けて、都に舞い降りて殿上の供物を食べた(=入内:天皇の私的区域である”内裏”にあがる)という伝説が由来であるとも考えられているとか。
また「にふ」はほくろを示す言葉であることから、にふない、つまり(頬に)ほくろのないスズメであるという説もあるとか。
ちなみに枕草子には「かしら赤きスズメ」として登場するとか。平安時代には現在よりも数も多かったのでしょうかね。
キツツキの巣を使う
巣は基本的に、なにかしらの「穴」に作ります。
それは樹洞であったり、キツツキの巣穴だったりします。
これはスズメにも共通して言えることですが、喧嘩上等の生き方です。
日本ではときおりコゲラの巣穴を奪う様子などを観察できるかもしれません。
巣のなかで、4–6卵を育てあげます。
寒さに強い?
スズメは低地にしかいませんが、ニュウナイスズメは山間部にも生息します。
地球で最も標高の高いエリアであるヒマラヤ山脈では、繁殖期には標高4,300mにまで分布することが明らかになっています。
ニュウナイスズメは最後の氷河期のあと(15,000–25,000年前)にほかのユーラシア大陸に生息するスズメの仲間から隔離され、別種に進化したと推定されており、
その際に寒冷地や森林部に生息するうえで役立つ生態を獲得したのかもしれません。
鳴き声
「チュンチュン」というスズメと変わらない鳴き声も発しますが、
澄んだ声で「チュー」といった声や、「ツィーピリョリョ」といったさえずりも行います。
鳥博士のメモ
ニュウナイスズメを記載したのは、実は超有名は鳥類学者ジョングールドです。
彼はその際に、種名を”cinnamomea(ラテン語で、シナモン色の という意味)”としています。
赤色のスズメを見たグールドは、きっとその色合いに驚き、種名を色に関連した名前にしたのでしょうね。
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