常緑照葉樹林のなかで耳をすませば、「ニーニーニー」という鳴き声が耳に入るでしょう。その声の主は、ヤマガラです。
可愛らしいその鳥は、日本人にとっては馴染み深い鳥であり、バードウォッチングを楽しむうえで欠かせないピースにもなっています。
図鑑では「入門編の鳥」として扱われることも多いヤマガラの、奥深い生態に迫っていきます。
それでは可愛らしいヤマガラの世界に迫っていきましょう!
興味のある項目に目次から飛んでくださいね。
ヤマガラの生態:入門編
ヤマガラ | Varied Tit | Poecile varius | スズメ目シジュウカラ科ヤマガラ属
レア度:☆☆☆☆☆☆☆☆★★(2/10:身近ですこし探すと見つかる)
見られる季節:1年中
見られる場所:小笠原諸島を除く日本全国の森林
見られる環境:主に照葉樹林(スダジイやエゴノキを好む傾向)
餌:雑食(主に、植物の種子や昆虫)
肌色と黒色の頭部、橙色の体と灰色の背中というとても特徴的な体色をしており、種の識別は簡単です。
主に照葉樹林に生息しますが、縄張りが広いため、照葉樹の木立ちには滅多に姿を表しません。
スダジイやエゴノキの実が好物であり、器用に実を足で保持して食べる姿は非常に可愛らしいです。
冬にはシジュウカラやエナガといった鳥たちと盛んに群れ(混群という)を作ります。
また貯食行動を行うことも知られている、記憶力の良い鳥類です。
ヤマガラの特徴 – 識別は簡単。豊富な亜種
ヤマガラは種のなかでも、住む地域によって体の色が大きく異なることが特徴の1つです。
亜種は以下の5つで、日本とその周辺地域で観察することができます。
特に欧州のバードウォッチャーにとっては、派手なカラ類ということもあり、日本周辺を訪れた際には見てみたい極東に生息する憧れの鳥であるとか。
・ヤマガラ(いわゆるヤマガラ:北海道、本州、九州、四国、五島列島、韓国)
・オーストンヤマガラ(オレンジ色のヤマガラ:伊豆諸島のなかでも本土から遠い八丈島、御蔵島、三宅島)
・ナミエヤマガラ(亜種ヤマガラと亜種オーストンの中間:本土に近い伊豆諸島の島々ー神津島、新島、利島)
・オリイヤマガラ(淡いオーストンヤマガラといった風貌:西表島)
・タイワンヤマガラ(濃淡のはっきりした亜種ヤマガラ:台湾)
こんなにたくさんの亜種がいるのかぁ
全部見てみたいですね!
ヤマガラの生態
一夫一妻で、つがい関係は周年維持します。なかよし夫婦ですね。
しかし、ときに離婚します。複数回繁殖をする場合には、つがい相手を変えることもあるとか。
巣穴は自分で掘ることはせず、自然の樹洞やキツツキの巣穴を利用します。
卵は6–7卵産み、14日ほどでヒナが生まれます。子育ての期間もなかよし夫婦の絆はずっと強いままです。
ちなみにヤマガラの行動圏( ≒ なわばり)は広く、シジュウカラの2–3倍もあるようです。
混群の主要メンバー
ヤマガラは、他の種と一緒に群れを作る鳥の代表格とも言えます。そういった群れは「混群」と言われており、流動的にその群れの構造は変化します。
多くの鳥たち(例えば、シジュウカラ、コガラなど)は他の種に対して攻撃的な態度を頻繁に取るのに対して、ヤマガラはほとんどそういった行動を示さないことが知られています。
ヤマガラは優しい鳥なんですかね
その理由については議論がなされていますが、ヤマガラは他の混群メンバーよりも樹木から離れた地面や、
樹木のなかでも高く外側に位置する枝で採食する傾向があり、いざこざに巻き込まれることが少ないのかもしれません。
餌をとるときには、工具の「ノミ」のような嘴をつかって木の皮を壊したり、種子を破壊したりして餌を食べます。
もちろんイモムシなどをピンセットのようにつまみ取ることもしばしばです。
オーストンヤマガラとナミエヤマガラ
うえで示したヤマガラの亜種のうち、亜種オーストンヤマガラと亜種ナミエヤマガラは伊豆諸島に住んでいます。
亜種ナミエヤマガラは、亜種ヤマガラと亜種オーストンヤマガラの中間的な体色をしています。
その理由として、ナミエヤマガラは亜種ヤマガラと亜種オーストンヤマガラの遺伝子をちょっとずつもっていることが示唆されています(遺伝子の浸透と言います)。
そういった理由で、亜種ナミエヤマガラは羽色に変異が多く、かなり亜種ヤマガラっぽい個体から、オレンジ色が強い個体までが知られているようです。
しかし、亜種をまたいだ交雑は頻繁には起きていないため、ナミエヤマガラは亜種として認識されるほどには羽色の特徴が維持されていると考えられます。
鳴き声
ヤマガラは鳴き声を覚えれば、すぐに森のなかで見つけることができます。
さえずりは、「ツーピー ツーピー」とシジュウカラと比較してゆっくりと鳴きます。音もすこしだけ低いのが特徴だと感じます。
ただしかなりさえずり方にもバリエーションがありますので、色々と聴き比べてみましょう。さえずり1の鳴き方が典型的かもしれません。
地鳴きは、シジュウカラよりも金属的な鋭さをもちます。ひずんだ音というのでしょうか。
混群などで両者の声を姿を見ながら聴き比べてみましょう。
特に「ニーニーニー(ジーとも聞こえる)」という声はヤマガラならではです。
鳥博士のメモ
ヤマガラはこれまで、神社などで飼育され、おみくじを引くといった芸を持つことでも有名です。
しかし、最近ではめっきり見なくなってしまったようにも思います。
この芸は、ヤマガラの口先の器用さと、利口さが可能にしているのかもしれません。
まず、ヤマガラは嘴で餌をたたきわったり、幹のあいだにものを隠したり、隠した餌を取り出したりすることができます。
さらに貯食行動を行うため、記憶力も高いのでしょう。
最近ではカラ類の音声コミュニケーションが注目されていますが、ヤマガラの音声を解析すれば、おみくじを引くよりもずっと利口であることがわかりそうに思います。
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