青くて宝石のように美しい鳥で、宝石にも例えられる鳥、それはカワセミです。
滅多に見られない鳥のように扱われることもしばしばですが、実は私たちの訪れる都市公園などでも生活できる「タフな鳥」でもあります。
この記事では博士号をもつトリハカセが、
レアに見えるカワセミの意外な姿を紹介します。
興味のある項目を目次から選んでくださいね。
カワセミ入門編
カワセミ | Common kingfisher | Alcedo atthis | ブッポウソウ目カワセミ科カワセミ属
レア度:★★☆☆☆☆☆☆☆☆(2/10:身近ですこし探すと見つかる)
見られる季節:周年
見られる場所:日本全国
見られる環境:低地の淡水の水辺に多い
餌:主に魚類、たまに昆虫などの無脊椎動物
カワセミは全長17cm、体重19–40gと小型のカワセミ科の鳥類です。
見る角度によって色が変わるの美しさから、カワセミを漢字表記すると翡翠(ひすい とも読めます)となります。
宝石と同じ漢字があてがわれている、のではなく、宝石の名前の由来がこの鳥なのです。
低地の淡水域に多く、池、沼、湖、川などありとあらゆる淡水に隣接する環境に生息する鳥類であり、高原と呼ばれるような環境にも出現します。
近年は水質が改善された東京の河川や都市公演でも観察され、一般の人の目をも楽しませています。
遠くからも聞こえる鳴き声を頼りに
青色の姿を探してみましょう!
カワセミの生態
海外と日本の分布域
カワセミの分布域は、想像よりもはるかに広いです。日本全域だけでなく、中国南東部、東南アジア、インドを経て中央アジア、アラブ諸国、ヨーロッパやアフリカ北部にまで及びます。
また日本の南側に目を移せば、マレーシアやインドネシアにも分布しますが、これらの場所では越冬期のみ見られる冬鳥です。
場所によっては見られる季節が限定される「渡り鳥」なのです。
日本でも、北海道では夏のみ見られます。
夫婦別居の越冬期
カワセミは、1年を通して同じ場所に留まる場合、夫婦がほぼ同じ場所で1年をとおして同じ場所で生活します。
しかし、夫婦は1kmほど離れて別々の場所に縄張りを作って、春を待ちます。
カワセミはテリトリー意識が強く、他の鳥と比較して地味ですが、結構真剣に(?)喧嘩をするのです。
以下の動画をご覧ください。これはオス同士の喧嘩ですが、静かに相手を追い払おうとします。
長い繁殖期
日本では繁殖期が3月から8月にかけた長い期間に及びます。
その長い期間のあいだに一夫一妻で、1−2回の繁殖を行いますが、多いときには4回も繁殖します。
そんなアツアツなつがい関係の最たる例は、求愛給餌でしょう。オスからメスに、魚などのご馳走がプレゼントされます。ほぼ婚約指輪ですね!
求愛給餌は交尾前に頻繁に行われ、つがいの愛を深める以外にも、メスの栄養補給という役割もあると考えられています。
野外で観察できると特に嬉しいシーンですね。
しかし、なぜかメスは餌を受け取らないこともあります。なぜ?
崖などに穴を掘り、なかに作った巣で6–7卵ほどを育てますが、そのうち1–2卵ほどがなぜか孵化しません。
抱卵は19–21日、さらに23–27日ほどかかって雛は巣立ちます。
巣立ちから4日後、幼鳥ははじめての「潜水」を行います。じきに自立し、成鳥の縄張りから追い出されるのです。
渡りの時期や幼鳥の分散時期には、山間部の水辺など
ちょっと変な場所でも観察されます。
繁殖成功と失敗
繁殖成功度は決して低くなく、50–80%です。
アナグマ、キツネなどなど、カワセミの雛や卵をご飯にする動物は多岐にわたります。
カワセミはその鋭い嘴を武器に応戦するでしょうが、大型の哺乳類には敵わないのです。
欧州で普通に見られることからか、
繁殖など生態に関する知見が蓄積しています。
案外多様な餌
カワセミは魚ばかり食べているイメージがある方も多いでしょうが、案外ほかの生き物も食べています。
イギリスで行われた研究によれば、魚が占める割合は60%で、昆虫が20%、甲殻類が5%、オタマジャクシが5%、そして軟体動物が5%でした。
とはいえ、ほかの研究では魚が占める割合が80%にのぼることから、魚が大好きであることは疑いようがありません。
また稀な餌としては、植物の果実を食べた事例があります。
ぜひ変な採食を観察した場合には、
バードリサーチの食性データベースに登録を!
それは重要な科学的な知見かもしれません。
渡り鳥カワセミ
カワセミの生態のなかで、想像と掛け離れた実態は、おそらく渡りです。
まず、本州に住むバーダーからすると、カワセミが季節的に渡りを行う鳥類だという実感は乏しいでしょう。
実際、北海道では夏にしかみられないことからも、本種が渡りをすることがわかります。
そしてカワセミは夜に渡り、さらに渡り時期には小さな群れを作ることがあるようです。
カワセミの大きな群れがあるとしたら、見てみたいですね!
vs. ヤマセミ
ライバルはヤマセミ?
日本の河川に住むカワセミに似た野鳥の1種に、ヤマセミがいます。
大きさこそカワセミ(全長17cm)よりはるかに大きいヤマセミ(全長38cm)ですが、両者は川魚を食べるライバルに見えます。
しかし、ライバルに見えるカワセミとヤマセミは、ところによって一緒に生活することができるようです。
その理由として、カワセミとヤマセミは食べる魚の大きさや、採食場所が異なるので、餌を巡るライバルにならないのです(Kasahara & Kotoh 2008)。
また種間でのケンカなどもほとんどないことから、別に意識し合っているわけでもなさそうです。
大きな魚しかいなかったっり、小さな魚しかいない場所では
1種しか生活することはできないのかもしれないですね。
鳴き声
カワセミを見つける最も手っ取り早い方法が、鳴き声です。
「チーー」と遠くまで響く高い声で鳴きます。飛びながら鳴くことも多いので、鳴き声を聞いたら動く青色の鳥を探してみましょう。
名前の由来と万葉集
カワセミという不思議な名前は、カワ(川)、そしてソビ(青土) という言葉から来ていると考えられているようです(リンク)。
その美しさは大昔から日本人の心を動かし、万葉集にもその美しさについての歌が…
と思ったら、万葉集に登場してるっぽいカワセミは、なんと声がピックアップされているのでした!笑
「貎鳥の 間なくしば鳴く 春の野の 草根の繁き 恋もするかも」
ここで言う貌鳥が、カワセミの説があるとか。他にもカッコウの説や、他の鳥の噂もありますが…。
ほんとにそれはカワセミなのか…?
カワセミ、そんなに鳴かないですよね。
どうしてもみたい場合は?
どうしても見てみたいけれど、見る自信がないという方におすすめなのは、
魚が多そうな都市公演の水辺で、ひたすらお弁当とお菓子を食べて待つことです!
歩きながら探すと、飛び立つ姿は見つかるかもしれませんが、なかなかじっとしている様子に気づくことはできないものです。
ぜひ水辺の近くの枝にとまり、いい餌ないかなぁと考えていそうなカワセミをゆっくりした時間のなかで探してみてください。
参考文献
・清棲 (1978) 日本鳥類大図鑑. 講談社, 東京.
・中村・中村 (1995) 原色日本野鳥生態図鑑 水鳥編. 保育社, 東京.
・真木・大西 (2000) 日本の野鳥590. 平凡社, 東京.
・大橋 (2003) 鳥の名前. 東京書籍. 東京.
・西村 (1979) カワセミとヤマセミの造巣場所選択について. 山階鳥研報, 54: 39-48.
・The Cornell Lab of Ornithology (2023) Birds of the world.
・IUCN (2023) The IUCN red list of threatened species
・Kasahara & Katoh (2008) Food-niche differentiation in sympatric species of kingfishers, the Common Kingfisher Alcedo atthis and the Greater Pied Kingfisher Ceryle lugubris. Ornithol. Sci. 7: 123-134.
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