1996年から北海道テレビで放映され、様々な旅を経て伝説の番組となった”水曜どうでしょう”。
「大泉洋。信じられないことだが、彼はこれからどこに行くのか聞かされていない」そんなナレーションで始まる
4度目の海外企画マレーシアジャングル探検は忘れられない不朽の名作と言えます。
この企画では、マレーシアの熱帯雨林の奥深くにある動物観察小屋であるブンブンに宿泊しキャスト4名が苦しむ…という内容ですが、
生物の研究を行なってきた理学博士目線では、羨ましいことこの上ないのです。
水曜どうでしょうファンとして、そして1人の研究者として、トリハカセはそんな水曜どうでしょうのロケ地「タマンネガラ国立公園」を訪れてきました。
マレーシアのジャングル探検
タマンネガラ国立公園 | マレーシア | 約1.3億年の歴史がある広大な熱帯雨林
今回のまとめ 記事の前半に旅、後半に鳥について詳しく紹介しています。
日程:4泊5日
行き先:クアラルンプール国際空港 → クアラテンベリン → クアラタハン → タマンネガラ
宿泊: Woodland Resort
訪れたブンブン:ブンブンブラウ、ブンブンクンバン
鳥の種数:119種
哺乳類:ヒゲイノシシ、カニクイザル、アジアスイギュウ、マレーバク、アジアゾウの糞。スマトラトラの気配はなし。
今回は本ブログの運営メンバーであるトリハカセのほか、昆虫博士と貝博士とともにタマンネガラ国立公園の熱帯雨林の自然を見るために日本を出発。
旅行会社「NCT自然と文化の旅」に問い合わせ、現地の宿とクアラルンプールからタマンネガラ国立公園までの移動を事前予約しました。
クアラルンプールからクアラテンベリンまではバス、クアラテンベリンからクアラタハンまでは船で移動する「どうでしょう」の行程をたどります。
クアラルンプールからクアラテンベリン
我々は日本を前日夜に出発し、飛行機で1泊、朝8時頃にクアラルンプール国際空港に到着。
空港から電車で数駅乗車し、KLセントラル駅で下車。そしてバスに乗車するため、旅行会社から指定された集合場所(ホテル)まで向かいます。そこから約3時間バスに揺られます。
クアラテンベリンで昼食をとり、そこからいよいよテンベリン川をボートでのぼります。
クアラテンベリンでは僕たちが日本人と知ると安室奈美恵の曲を歌い出す青年に出会ったりしました(笑)
彼曰く、日本のポップスは結構知っている人がいるとか。メロディーが良いのだそうです、なんだか嬉しいですね。
さて、いよいよボート乗船です!大泉さんは爆睡していましたが、我々の興奮は最高潮。いよいよ生物の教科書や論文で何度も読んだ熱帯雨林に足を踏み入れるのです。
船での移動
乗り込んだボートは、ヤマハの小さなエンジンの音を響かせて出航。順調に川を登っていきます。
ちなみに運転技術は人によって異なるようで、帰りのボート利用時には初心者の運転手だったのか、揺れに揺れ、最終的には浅瀬に乗り上げ、客全員でボートから降りて船を川に戻したりしました(笑)
川沿いにはアオショウビンやナンヨウショウビンといったカワセミの仲間が非常に多くおり、
さらに空を見上げればマレーアナツバメやリュウキュウツバメ、ルリノドハチクイが飛び回ります。
一睡もしないまま、あっという間にボートの先にタマンネガラ国立公園の玄関口であるクアラタハンの町が見えてきたのでした。
タマンネガラ国立公園
今回は1日目にブンブンブラウ、2日目にブンブンクンバン、3日目にクアラタハン周辺を散策し、4日目にクアラルンプールに戻るスケジュールでした。
うまい飯
まず初日から心配なのは、やはり食です。これほどの奥地にまともま飯屋はあるのか…。
結論から言えば、店はたくさんあるし、結構美味しいのです。油でべちゃべちゃのチャーハン的なものが食べられます(そう表現すると不味そうですが)。
加えて、スイカやバナナといった果物を砕いたスムージーは絶品でした。
タマンネガラ国立公園は特に欧州や北米の旅行者にとっては良い旅行先となっているようで、
環境客の80%くらいは欧米圏からの自然好きといった印象で「前回はアフリカのケニヤに行った」だとか「コスタリカの野鳥はよかった」など色々な経験談を聞けました。
そういった場所ですので、想像よりもクアラタハンは観光地化されており、非常に快適に過ごすことができました。
遠すぎるブンブン・クンバン
2日目は早速、動物観察小屋の帝王ことブンブンクンバンへ。
クアラタハンからの距離は約10km。しかし、野外調査で日々鍛え抜いている私たち生態学者にとっては大したことない!そんな風に考えていました。
残念ながら、そんな甘い考えは打ち砕かれてしまうことになります。
ブンブンクンバンまでの道のりは決して平らではなく、ところどころが恐らく雨季の水の流れによって削り取られ、深い谷を登ったり降りたりを繰り返すのです。
森の中は象の糞が落ちていたり、林の向こうにいるスイギュウと目があったりと、ドキドキの連続でした。
そして3名は時間をかけにかけて熱帯雨林の自然を堪能してしまったのです。汗をかきながらもゆっくりと歩みを進めました。
おそらく9km付近でしょうか、3名のうち1名の水筒は空に…。ほか2名の水も半分以下、つまり一晩ブンブンに泊まってしまったら絶対に帰りの水はない…。
しかし私たちは、現地の川の水を飲むことだけは避けなければならないことを事前情報として知っていました(食中毒のリスクが非常に高い)。
僕たちは森をかき分け、川沿いに出て、現地の漁師に「Help! Help!(助けて!)」と叫びかけ、救出してもらうことになったのでした(しっかりとお礼をしました)。
足早にクンバンまで歩くならまだしも、もし熱帯雨林を堪能したいのなら水は6リットル以上持っていくほうが余裕があるでしょう。
現在のブンブン・ブラウ!
ブンブンクンバンではいたい思いをした一方で、ブンブンブラウはクアラタハンから2時間ほどで到着する非常にアクセスの良いブンブンでした。
水曜どうでしょう「ジャングル探検」と「ジャングル・リベンジ」の企画のあいだに建て替えられ、綺麗になったブンブンブラウ。
なにかと地面や野外で寝ることに慣れている我々は、小屋のなかでは快適に過ごすことができました。
しかしブンブンを利用した先人たちが、小屋に恐ろしいメッセージを残されていました「でかいクモに気付け!」。
観察できた鳥類
現地のバードウオッチングクラブ
1日中鳥を探していると「君も鳥を探しているのかい?」といった具合に、双眼鏡をもった現地の青年が話しかけてくれました。
なんと彼は、タマンネガラ国立公園でバードウオッチングクラブ(野鳥の会)を運営する鳥好きだったのです。
その青年は友人達に僕を紹介してくれ、その際には4名のタマンネガラのバードウオッチングクラブの結成するメンバーと交流したのでした。
僕は嬉野さんがカメラに収めたミドリヒロハシのことについて訪ねてみました。
そうすると「朝や夕方の涼しい時間には森林のなかで見られるけれど、日中の暑い時間には川沿いの涼しい場所に避難するんだ」と返ってきました。
僕は熱帯の鳥たちがそのような日中の移動をするといった記述を論文などでも読んだことがありません。そう、タマンネガラ国立公園の野鳥の会はなかなかにハイレベルだったのです!
熱帯雨林の鳥類たち
日本で幼少期からバードウオッチングをしてきた僕は「想像よりも種数が多く、個体密度が低い」という印象を熱帯雨林の鳥たちに抱きました。
合計で119種の鳥類を発見することができました。
特に嬉しかったのは黄色いシジュウカラことサルタンガラです。
タイ周辺やマレー半島に分布するサルタンガラは、熱帯性のカラ類で、どんな生態をしているのかとても気になっていました。
その採食行動は身体が重そうで、かなりゆっくりした動きで樹上の餌を探していました。
ほかにも、全長が30cmと中型(キジバトほど)で全身の赤色が美しいアカエリキヌバネドリや、
尾羽から細長い羽が伸び、その先端にうちわのような羽がつくカザリオウチュウや、
メグロヒヨドリをはじめとするヒヨドリの仲間を11種観察しました。
熱帯雨林のなかで最も多いのはヒヨドリの仲間であることには非常に驚いたのでした。
さらに薄い青色が美しいPale-blue flycatcher、熱帯雨林のなかでも赤色が目立つセアカミツユビカワセミ、緑色が美しいオオコノハドリやサトウチョウ、最も大型のキツツキであるキタタキなどなど
名前を挙げ出したらキリがないほど魅力的な鳥たちに出会うことができました。
加えて、夏に日本にやってきて、冬は熱帯で越冬する鳥たちが熱帯雨林で生活する様子を観察できたことも嬉しいポイントでした。
熱帯雨林のなかからセンダイムシクイのさえずりが聞こえた際には嬉しくなりましたし(そもそも越冬地でさえずることを知らなかった)、
マミジロキビタキ、コサメビタキ、ツバメ、アカモズ(亜種不明)、サンショウクイ、メボソムシクイ上科の種(オオムシクイ?)を発見しました。
なかでも印象的だったのはサンショウクイで、熱帯雨林の樹冠を数羽の群れで飛び交うその姿は非常にしっくりきており、「おまえは日本の森ではなく熱帯雨林の鳥だったか!!」と納得させられてしまいました。
生態学から
熱帯雨林の生態系
最後に、ちょっとだけ生態学的な側面から見た水曜どうでしょうのロケ地についてみてみましょう。
この地球上で、ほとんどすべての生物で熱帯の方が、温帯や寒帯に比べて種数が多いことが知られています。
そして、熱帯雨林などでは種数が多すぎて、いくら調査をしても”すべての種を見つけた”という結論にまで至りません。例えばコスタリカのアリでは30年間調査をし続けたにもかかわらず、見つかっていない種が調査のたびに見つかるようです。
実際に今回、タマンネガラ国立公園の熱帯雨林では見かける鳥のなかに新しい種がどんどんと現れて非常に楽しい毎日でした。
熱帯で種数が多い理由については現在も研究が続いていますが、熱帯雨林で氷河期のあいだも生物が進化しつづけられた(他の場所は氷河に覆われてしまって無理だった)ことなど様々な説が唱えられています。興味深いですね。
壊れていく生態系
先に紹介した理由から、熱帯雨林には未だ人間に発見されていないさまざまな生物がいるのではないかと考えられています。
しかし逆に考えれば、熱帯雨林が切り開かれれば、それらの生物がひっそりと姿を消してしまうとも言えます。
タマンネガラ国立公園のあるマレーシアでは開発のために熱帯雨林が切り開かれ続けており、もしかすると大泉さんたちが驚愕した雄大な自然は徐々に弱っていってしまうかもしれません。
これまでに人間が発見した生き物、発見していない生き物がどんどんと死滅していってしまうのです。
加えて、熱帯を覆う森林の生態系のバランスが崩れたら、地球レベルではどのような変化が引き起こされるのかを予測することは現在の科学では不可能です。
今回熱帯雨林の自然を肌で感じ、ブンブンから自然を眺め、外国だから関係ないとは言えない地球環境問題をも身をもって体感できたのでした。
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