黄色のお腹が目立つカラ類の1種キバラガラは、日本に住んでいるバーダーにとっては憧れの鳥かもしれません。
近年写真に撮っている人も増えていますが、そもそもの生態についてより詳しく知れば、発見確率は上がるかもしれません。今回はそんなキバラガラの生態や、過去の記録について紹介します。
この記事ではすばしっこいキバラガラに迫っていきます。興味のある項目を目次から飛んでくださいね。
キバラガラ入門編
キバラガラ | Yellow-bellied Tit | Periparus venustulus | スズメ目シジュウカラ科ヒガラ属
レア度:★★★★★★★☆☆☆(7/10:日本が主な分布域ではない)
見られる季節:越冬期
見られる場所:低地の疎林(案外、都市に近い場所)
見られる環境:広葉樹林よりも針葉樹林を好む
餌:昆虫、針葉樹の種子など
キバラガラは体長10cm、体重10グラムほどのかなり小型の鳥です。
なんとなくヒガラに似ていますが(大きさも同じくらい)、黄色いお腹を双眼鏡で発見すれば、一目で別種だとわかるはずです。
20年ほど前までは、図鑑に登場することもほぼありませんでしたが、近年は日本で頻繁に越冬記録が得られており、日本の鳥の1種だと言える状況になってきたかもしれません。
国内で見るチャンスがあるとしたら、越冬期です。一方で、国内での繁殖記録はありません。
キバラガラの生態
大陸における分布域
キバラガラの日本での越冬例があると述べましたが、主な繁殖地および越冬地は、中国本土です。
主な繁殖地は中国南東部(北は河北省、南は柳州省あたり)あたりで、周年見られます。
標高500mから3,000mくらいの高標高域が繁殖域であり、日本のコガラのような分布をしているのかもしれません。
その一方、冬の高標高域は気候や餌といった条件が厳しいためか、越冬期には標高1,000m以下の山間部から海抜0mほどの市街地で見られるようになります。中国東海岸あたりは、越冬期のみキバラガラが見られるようです。
好む環境
キバラガラが好む環境は、広葉樹林や、広葉樹と針葉樹が混ざり合う林です。
広葉樹の樹冠部を「ヒガラのように」短距離を飛行し移動しながら、餌を探します。
僕の印象としては、コガラが生息できそうな環境で、コガラよりも樹冠側で、ヒガラのように活動するカラという感じです。
加えて、ヒガラよりも距離のある遠い枝間をビュンビュン移動しながら餌を探すようなイメージがあります。
姿・形が似るヒガラが針葉樹林を好むのとは
対照的ですね。
増え続ける日本での越冬記録
森池ら(2018)によれば、キバラガラが日本ではじめて記録されたのは1985年2月です。場所は東京都板橋区城北中央公園です。
2例目は、1989年9月に愛知県名古屋市庄内川河口域で、3例目は1993年11月に(再び)東京都板橋区城北中央公園で記録が得られました。
石川県の舳倉島や山口見の見島など一部離島などはあるものの、人里に近い疎林や、大きな都市公園のような場所での記録が多いのが特徴です。
これは、中国本土での越冬場所の特徴とも一致しそうです。
つまり、針葉樹と広葉樹が混交する低地の都市公演や防風林、緑地などで発見のチャンスが高いと思われます。
森池ら(2018)はキバラガラを知るうえで、めちゃめちゃ面白い論文なので読んでください(リンク)。
日本語なので、ワクワクしながらもスムーズに読めるはずです。
繁殖と越冬生態
営巣は樹洞や岩間といった自然にできた隙間に巣を作ります。苔や葉、動物の毛で巣を作ります。
5–7個の卵を産み、メスのみが抱卵しますが、子育ては両親ともに行います。抱卵期間は約12日、育雛期間は16–17日です。
繁殖期は縄張りを構築し繁殖をする一方で、越冬期には数羽から数十羽で群れを作ります。
また越冬期には混群も形成するようです。私はエナガと混群らしき群れを形成し、一緒に採食する様子を見ました。
主な餌生物は、昆虫や穀物です。貯食もするようです。しかしながら、繁殖期や越冬期に利用する餌の割合などは明らかになっていません。
鳥類群集の調査をしたXin & Li (2001) によれば、北京のXiaolongmen National Forest Parkで唯一の優占種なんだとか。現地では本当に普通の鳥なんですね。
行ってみたいですね!
コミュニケーション
キバラガラの研究は、鳥の面白いコミュニケーション能力の存在を示しています。
それは、お隣さんと、見知らぬ鳥とを区別する能力です。
お隣さんのさえずりをスピーカーから流すと(もう縄張りの境界がある程度決まっているので)反応が弱い一方で、
見知らぬキバラガラの鳴き声を再生すると、猛烈に反応するのです。
お隣さんと知らない鳥を識別することで、侵入者をいち早く効率的に発見できるのでしょう。
キバラガラがたくさんいる森で研究なんて、贅沢ですね。
キバラガラの特徴
キバラガラの特徴は、黄色いお腹、ヒガラっぽい顔、そして2本の翼帯でしょう。
この特徴はオス・メスともに共通しますが、オスの方が色がはっきりしており、メスは鈍い色をしています。
類似した種としてはヒガラがあげられますが、日本で繁殖するヒガラはお腹は黄色くありません。
冬に見られ、樹上で生活するお腹の黄色い鳥は他にマヒワなどがいますが、動きが全く違うので、じっくり観察すれば間違えることはないでしょう。
鳴き声
越冬期に聞く地鳴きは「チーチチ」ちか「ピーピピ」と聞こえる高い声です。ヒガラともコガラともシジュウカラとも違う声色です。
またさえずりは、ヒガラよりもちょっとだけぺちゃぺちゃした音です。が、ヒガラに似ます(4秒くらいから鳴く)。日本で聞く機会はほとんどないかもしれません。
今後のキバラガラに期待!
もっとたっぷりキバラガラを楽しみたい!
森池ら(2018)によれば、韓国では2005年に記録されて以来記録が増えているとのことで、極東においてキバラガラは分布を拡大中だと考えることができるとか。
近年も、頻繁にキバラガラの越冬や渡り時の記録が得られています。
もしかすると、近い将来キバラガラは日本で普通に見られるようになる日も来るかもしれません。
今後もキバラガラの動向から、目が離せません!
参考文献
・真木・大西 (2000) 日本の野鳥590. 平凡社, 東京.
・森池ほか (2018) 福岡県久留米市におけるキバラガラ Periparus venustulus の観察記録. 日本鳥学会誌 67: 127–131.
・The Cornell Lab of Ornithology (2023) Birds of the world.
・IUCN (2023) The IUCN red list of threatened species
・Xin & Li (2001) Ecological analysis and classification of forest bird communities at Xiaolongmen Beijing. Chinese Journal of Ecology 5:25–31.
・Wei et al. (2010) Neighbour–stranger discrimination by Yellow-bellied Tit Parus venustulus: evidence for the “dear-enemy” effect. Journal of Ornithology 152: 431–438.
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