日本固有種の1種であるイイジマムシクイは、国の絶滅危惧種、そして天然記念物として指定される貴重な鳥です。
そんなイイジマムシクイの見た目はセンダイムシクイと似ていますが、どのような違いがあるのでしょうか?
そもそもすごく似ている他のムシクイ達との違いはあるのでしょうか?本土で観察できるチャンスは…?
この記事では、イイジマムシクイに関するそんな疑問について詳しく紹介していきます。
イイジマムシクイ入門編
イイジマムシクイ | Ijima’s leaf warbler | Phylloscopus ijimae | スズメ目ムシクイ科ムシクイ属
レア度:☆☆☆☆★★★★★★(6/10:恵まれた限られた環境にしかいない)
見られる季節:夏
見られる場所:伊豆諸島とトカラ列島の一部の島
見られる環境:森林ーさえずりをする時期に分布する島の森林を訪れれば見られる。
餌:昆虫食
イイジマムシクイは体長12cm、体重10グラムほどの小型のムシクイ類です。
繁殖地は伊豆諸島やトカラ列島に限られるため、渡り時期や越冬地では滅多に見られないレアなムシクイだと言えるでしょう。
その一方で繁殖地での生息密度は高く、繁殖期に行けば高確率で見られる鳥でもあります。
三宅島などは生息密度が高く、数日滞在した場合には「なんだイイジマムシクイか」と言ってしまうかもしれません。
イイジマムシクイの生態
伊豆諸島とトカラ列島でもいない島がある?
イイジマムシクイはこの地球上で、東京都の伊豆諸島、それから鹿児島県のトカラ列島だけで繁殖します。
伊豆諸島は8つの有人島、トカラ列島は7つの有人島によって構成される「列島」です。
しかし、すべての島でイイジマムシクイは繁殖するわけではないので、探しにいくときは注意が必要です。
伊豆諸島では主に三宅島以南で個体数が多く、本土に近い大島、新島、神津島、式根島でその個体数は少ないことがわかっています。
一方でトカラ列島では中之島と諏訪之瀬島で確実に繁殖しており、口之島と悪石島でも繁殖している可能性が高いようです。
総個体数は2,500–10,000羽ほどと推定されています。少なくはないですが、なんとなく妥当な数な感覚です。地球上に3000羽程度しかいないと考えると…。
好む環境と繁殖生態
イイジマムシクイは茂った森林を好みます。一方で、疎林ではその密度は低く、草原で見た経験はありません。
それぞれの島に春先に渡来すると、まず縄張りを構築します。特に密度が高い伊豆諸島の三宅島では、森林全体からイイジマムシクイの鳴き声が響くのです。
産卵期は5ー6月。1巣卵数は3-4個と、他のムシクイ類と比較して控えめな数の卵を育てます。
さらに多くの他のムシクイ類は地面に巣を作りますが、イイジマムシクイの巣は樹上にあります。姿は他のムシクイと似ているのに対し、生態はかなり独特なのです。
ちなみにこの生態はムシクイ類のなかでも独特であり、島という特殊な環境で進化した結果だと考える研究者もいるのです。
昆虫が大好き
イイジマムシクイは昆虫食です。
詳しい餌内容についてはこれまで研究がなされていませんが、管理人はこれまでに鱗翅目の幼虫や成虫、半翅目の小型の昆虫、甲虫の仲間など幅広い昆虫を食べる様子を観察した経験があります。
ただし、採食のほとんどは樹上で行われるので、地上性の昆虫はイイジマムシクイの捕食圧からは開放されていることでしょう。
謎に満ちた越冬と渡り
フィリピンのルソン島では確実に越冬しています。また台湾も越冬地と考えられており、ebirdを見ると複数の記録があります。
しかし、原田ら(2019)によれば、それはコムシクイの誤認である可能性があるとか。
実際、日本の先島諸島は大量のコムシクイが渡りの時期にみられますが、それらの個体が台湾で越冬するのかもしれません。
イイジマムシクイがどのような渡り経路をとるのかについて、春先に伊豆諸島を経由して3月から4月に伊豆諸島にやってきます。加えて、瀬戸内海や鹿児島でも複数の記録があることから、列島に沿って伊豆諸島へと移動する可能性が高いようです。
秋には9月くらいまで少数ながら伊豆諸島に残る個体を私は確認していますが、過去の記述を探ると、伊豆諸島で越冬する可能性も否定できません。が、近年の確実な記録はないようです。
一方でトカラ列島のイイジマムシクイの渡りについて詳しいことは本当に不明です。ほぼ研究がなされていないようで…。
蜂フライト
イイジマムシクイは喧嘩をするときに、蜂のような音を出して相手を追いかけ、威嚇します。
どの行為でも相手を排除できない場合は至近距離のさえずり合戦が行われます。ある程度既にテリトリーが決まっていたからだと思いますが、それ以上の直接的な闘争に発展する頻度は低い印象を受けました。
イイジマムシクイの特徴
センダイムシクイとの識別点
そもそもイイジマムシクイは識別が難しいですが、最も似ているのは「センダイムシクイ」と「コムシクイ」です。
見る機会が多いのはセンダイムシクイなので、まずはセンダイムシクイとの識別点を覚えるべきでしょう。
イイジマムシクイは「センダイムシクイより色がオリーブで顔が薄い」と覚えるのが良いかもしれません。またセンダイムシクイの下尾筒は黄色味がありますが、イイジマムシクイは白色です。
次にコムシクイとの識別点は、イイジマムシクイは「目がぱっちりしていて、繋がり眉毛」なのが特徴です。
目がぱっちりと述べたのは、イイジマムシクイはアイリングの白色が特に目立つムシクイの1種だからです。
またコムシクイは眉のように見える目の上の線が、嘴に届かずに垂直に切れる傾向があります。一方イイジマムシクイは、嘴の丈夫まではっきりと線が残ることも特徴です。
いやはや、ここまで述べても識別点の「一部」でしかないのですが、以上はとても重要なポイントです。
ここまで述べておいて更に重要な事を述べますが、識別する上で最も楽なのは、イイジマムシクイの声を覚えることです!
鳴き声
さえずりは似たような音を「チュイチュイチュイチュイ」「チュビチュビチュビ」と繰り返します。
さえずりはバリエーションに富むものの、基本的な「チュイチュイチュ」を覚えておけば、数回に1回はその声を聞けるでしょう。
地鳴きは弱々しい「ヒイ」という感じ。ルリビタキの声に似ていますが、もうすこし幽霊っぽい(イメージ)です。
カタカナにすると、ジョウビタキが「ヒッ!」、ルリビタキが「ヒ」または「ヒイ」だとすると、イイジマムシクイは「ヒイィ…」という感じです。
ただ伊豆諸島やトカラ列島以外で聞いた場合、ムシクイだと認識することは難しいかもしれません。
鳥博士のメモ
そもそも見ることが(島にいかないとならないので)大変。
個人的に越冬記録が熱い!研究求む!
繁殖期、伊豆諸島やトカラ列島に行けば、まあ会えるイイジマムシクイ。
しかし、伊豆諸島で越冬していると噂がありながら近年の確かな記録がなかったり、渡りについても詳細な研究がない本種。
しかもトカラ列島の個体群に関しては、その生態などなど未解明なことばかりなのです。
もしかすると進化学の1ページをめくるような、素敵な発見が隠されているかもしれません?!
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