住宅地、農村、里山と身近なさまざまな場所で、私たちはヒヨドリの騒がしい声を耳にします。
かなりの数を目にするためか、「なんだ、ヒヨドリか」と真剣に観察する機会は意外なほどに少ないかもしれません。
しかし、彼らはこの地球上で日本周辺のみに生息する貴重な鳥類なのです。
また、実は数十年前には、現在ほど簡単に見られる鳥ではなかったことを知っていますか?
今回はそんな身近な鳥「ヒヨドリ」の生態を紹介していきます。
ヒヨドリの生態:入門編
ヒヨドリ | Brown-eared Bulbul | Hypsipetes amaurotis | スズメ目ヒヨドリ科ヒヨドリ属
レア度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(1/10:身近で見られる)
見られる季節:1年中
見られる場所:低地から山地まで
見られる環境:森林を好むが、街路樹も利用する。
餌:雑食(昆虫や植物の果実を好む)
ヒヨドリは、全身が灰色で赤褐色の頬をし、頭のうえには冠羽をたなびかせる中型の鳥類です。
全長は28cmで、重さは軽い個体で60g、重い個体で90gに達します。これはだいたい単二電池くらいの重さです。
ヒヨドリ科のなかでも「目立つ」種であり、樹木のてっぺんで盛んに鳴き交わし、
人の目を気にせず街路樹で餌を探したりする様子を観察することができるでしょう。
現在では、日本の低地であればほぼどこでも見られるほど一般的な鳥類の1種です。
ヒヨドリの生態
昆虫と果実が大好き
ヒヨドリの夏の主食は昆虫、冬の主食は果実です。
両方の季節とも、大きく開く嘴を生かして大小さまざまなサイズの餌を利用します。
冬には庭に餌代を用意し、柑橘類などを置いておくと、ヒヨドリは高確率でやってきます。
また、秋にはカキの木にも実を探しに頻繁に訪れます。
ほかにも、トカゲなどの脊椎動物や、カタツムリなんかも食べてしまうとか。くいしん坊のイメージとなんとなく合致します。
また真冬にはキャベツなどの葉菜類も食べたりします。
実は渡り鳥である一面も
ヒヨドリは一般に留鳥とされていますが、緯度方向や標高方向に渡りを行います。
北海道にも多くの個体が冬も生きていますが、秋になると、津軽海峡をヒヨドリの群れが青森県に向かって飛んでいく様子を観察することができます。
厳しい冬を、少しでも暖かい南の地で過ごそうとするのです。
一方で、そうした緯度方向の渡りが目立つために注目されがちですが、
ヒヨドリにおいて卓越しているのは標高方向の渡り(冬には高地から低地へど移動する)であるとも考えられているようです。
実際に、ヒヨドリは本州中部では標高1,200mほどにまで繁殖期には分布します。実は低地限定の種ではないのです。
ヒヨドリの分布
島の優占種
本土でもたくさんの個体が見られるヒヨドリですが、
離島ではその生息密度がさらに高まることが知られています。
そして亜種の再検討が望まれている状況ではありますが、日本の離島ではさまざまな亜種が報告されています。
具体的には、小笠原諸島(亜種オガサワラヒヨドリ)、火山列島(亜種ハシブトヒヨドリ)、大東諸島(亜種ダイトウヒヨドリ)、奄美諸島(アマミヒヨドリ)沖縄や宮古諸島(亜種リュウキュウヒヨドリ)、八重山諸島(亜種イシガキヒヨドリ)、与那国島(亜種タイワンヒヨドリ)が分布します。
ヒヨドリは極東にしか分布しない
ヒヨドリは、日本に加えてサハリン、朝鮮半島、台湾、フィリピン北部にのみ分布する鳥類です。
世界的に見ると、かなり限られた分布をしているのです。
またヒヨドリ科のほとんどの種は赤道直下などの比較的暖かい環境に生息していますが、
ヒヨドリはそのなかでも最も寒い環境に生息している種とも言えるでしょう。
最近になって増えている種ヒヨドリ
ヒヨドリは現在でこそ身近な野鳥ですが、それは本当に最近の話です。
東京では1968年以降周年とどまるようになったとか。
なぜなら、もともと本州ではすこし標高の高い森林で繁殖し、冬になると人里に降りてくる「漂鳥」だったのです。
その主に繁殖をおこなう標高は500mから1,200mほどであったとされています。
ちなみに町ではあまり見られなかったという理由からか、ヒヨドリは日本の古文や伝説といった内容にはほとんど登場しないとか。
科学者な面では、都市部に侵入し、現在個体数を増やしている鳥として認識されており、国際自然保護連盟による推定では現在個体数が増え続けているようです。
繁殖生態
ヒヨドリの繁殖は基本的に樹上で行われます。
樹上に作ったお椀型の巣のなかに産んだ4卵を大事に育てます。
卵を温める作業はメスが行いますが、餌を運び雛を育てる過程は夫婦で行うようです。
巣立った雛もしばらくのあいだは、親鳥と一緒に生活します。
鳴き声
「ヒーヨ ヒーヨ」と騒がしく鳴き交わします。
さえずりは行わないと記載される場合がありますが、繁殖期には独特のリズムをつけて鳴いており、それがさえずりと位置付けられると考えています。
鳥博士のメモ
身近な鳥ヒヨドリですが、実は人間社会への適応力があるすごい鳥なのです。
こうした都市に進出する鳥類には、もともとの生息環境で獲得した何らかの生態や形態が関連していると考えられています。
ヒヨドリのもつどんな特徴が、日本の都市への進出を可能にさせたのでしょうか。
一方で離島では都市部にも侵入しているものの、多くの個体は島内の森林のなかで生活している印象もあり、ヒヨドリのなかのどのような個体が都市を好む傾向があるのでしょう。
その秘密を解き明かすことは、生物がなぜ都市に侵入したかの理由につながるはずです。
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