氷河期の生き残りとも言われるライチョウですが、日本はそんなライチョウの生息域の最南端に位置する貴重な場所です。
しかし私たちの生活する場所では観察することはできず、ライチョウは、日本では本州の山岳域のなかでも標高2,500mを超える高山帯のみに生息します。
「雷鳥」となんとも神々しい名前をもつ本種はどんな生態をしていて、全世界での個体数はどれほどなのでしょうか?
それでは早速ライチョウについて、みていきます!
記事は結構長いので、興味のある項目を目次から飛んでください!
ライチョウの生態:入門編
ライチョウ | Rock Ptarmigan | Lagopus muta |キジ目キジ科ライチョウ属
レア度:☆☆☆☆★★★★★★(6/10:恵まれた限られた環境にしかいない)
見られる季節:1年中
見られる場所:本州の高山帯(いくつかの山岳域に限る)
見られる環境:マット状の高山植生やハイマツ林
餌:主に植物食だが、昆虫も食べる
ライチョウは全長37cmと、ニワトリほどの大きさの鳥類です。
日本では樹木の生えない高山帯のみに生息する鳥類で、神の鳥という名前で呼ばれたりします。
主な食べ物は植物で、もふもふの羽毛に覆われることで厳しい高山域の冬をも乗り切る力強い鳥です。
山岳信仰が盛んだった頃から、山神の化身だと思われて大事にされてきました!
ライチョウの特徴 – 3種類の外見を持つ
ライチョウは真っ白の羽をもつイメージが強いかもしれませんが、日本に生息するライチョウの姿は1年に3度変化します。
1つ目の姿は、真っ白な冬の姿。雌雄ともに全身が白い羽毛で覆われ、雪に覆われた景色にとけこむことができます。
2つ目の姿は、黒っぽい夏の姿。雄の背中は黒く、雌の背中は黒色と黄土色のまだら模様となります。
3つ目の姿は、秋の姿。背中の色は雌雄ともに灰色と白色のまだら模様になります。枯れかかった高山植物のうえに、雪がまばらに積もった景色のなかに溶け込むことが可能です。
この3種類の外見をもつのは、全世界でも日本に住むライチョウ(日本産亜種japonicus)だけです。
海外のライチョウは3つ目の姿(秋限定)にはならないのです。雪の多い日本での生活に適応した結果なのでしょうね。
日本のライチョウって貴重なんだなぁ
ライチョウの生態
日本のライチョウは、一年を通して高山帯で生活しています。繁殖期にはオスとメスがペアになり、縄張りを構築します。
子供の世話はメスのみが行い、オスは子供が産まれたあとは1羽で生活します。
生まれた子供が次の世代を残すまでの平均世代時間は、4.2年とされています。
鳥のなかでもゆっくりと世代交代をする、スローライフな鳥でもあります。
冬は群れで生活します。厳しい真冬には、高山帯よりすこし低い標高の亜高山帯にまで降りて生活することもありますが、低地で見ることはまずありません。
主な餌は高山植物の芽、葉、果実、昆虫などです。
特徴的な糞
ほとんどの図鑑には掲載されていませんが、ライチョウの糞の特徴をご存知ですか?
ライチョウは、2種類の糞をします。1つ目は硬い見た目の「直腸糞」、2つ目は柔らかい見た目の「盲腸糞」です。
盲腸糞は、硬い植物組織を体内で消化する際に排出されます。
一方で、ライチョウは葉っぱなどの植物組織を食べますが、そうした硬いものを盲腸で発酵させたあとに、直腸糞は排出されます。
さらにさらに、植物を消化するために必要な腸内細菌を、ライチョウの子供は親鳥の「盲腸糞」を食べることで得ることも明らかになっているのです。面白いですね。
雷の鳥という名前の由来
名前の由来については諸説ありますが、雷がなるような天気の悪い日ほど、観察される確率が高いことに由来するという説があります。
実際に、雲一つない青空の日よりも、霧が出ている日の方が発見できる個体数は多いと感じます。
霧が出る日には、猛禽類などの捕食者に上空から発見されにくくなることが関係しているのかもしれませんね。
また真冬には、雪のなかに潜って寒さを凌ぎます。寒冷地で生きる鳥類ならではの生存戦略をもつのです。
これはかわいすぎる!しかし進化っていうのは、すごいですね。
絶滅の危機に瀕しているって本当?
本当です。2000年時点では、日本に生息するライチョウの個体数は約2000羽と予測されています。
その希少性から環境省のレッドリストでは絶滅危惧ⅠB類に指定されています。
3つの姿をもつ貴重な日本の亜種は、絶滅の危機に瀕しているのです。
どこで見られるのか
日本で最も観察しやすい場所は、安定した個体群が維持されている(=個体数が安定している)立山連峰と乗鞍岳です。
立山連峰は周年ロープウェイやトロリーバスで、乗鞍岳は夏季にはバスでライチョウの生息地を訪れることができます。
ほかには、北アルプス、南アルプス、御嶽山、火打山などに生息しています。
乗鞍岳や立山はアクセスが良く、登山道沿いであれば安全に観察できます!防寒着は忘れずに!
全世界で生きる個体数は?
全世界で見れば、「種レベル」では絶滅が間近に迫っているとは考えられていません。
なぜなら、日本の高山帯のような環境はロシア北方やアラスカなどの低地に広がっており、ライチョウは高緯度地域にひろく分布しているのです(IUCN分布図)。
国際自然保護連合(IUCN)が定める保全状況では、低危険種として指定されており、
全世界では500万から-2400万個体が生存していると予測されています。
とは言っても、気候変動による生息環境の変化(主にツンドラの消失)によって個体数が減少し続けていると考えられており、
気候変動の進行は世界的なライチョウの個体数にも深刻な影響を与えそうです。
鳴き声
オスは「ゴォー ゴォー」という鳥らしくない声で鳴きます。
メスは「クゥ クゥ」という声でなき、オスのような声は出しません。
オス・メスの見分け方
夏には、ライチョウのオスは、黒い背中と赤い目の上の赤い肉ヒダが特徴的です。
ライチョウのメスは、黒と黄色のまだら模様の背中が特徴ですが、目の上の赤色は目立ちません。
冬にはオス・メスともに真っ白になりますが、目の上の赤いヒダはオスで目立ちます。
ただし、以下の写真のように、小さいながらにも、メスにも肉ヒダはありますので、それだけで識別するのは注意が必要です。
オスには、目の前に黒色の線が入ります。
秋には、オス・メスともに黒・黄色・灰色のまだら模様となりますが、オスの方がやや黒味が強い傾向があります。
そして目の上の肉ヒダはオスで目立ちます。それらの特徴から総合的に判断しましょう。
ライチョウに迫る絶滅の危機
しかし残念なことに、日本の山岳域で、ライチョウの生息域は温暖化によってどんどんと縮小していくと予測されており、
もしかすると近い将来、日本でライチョウを観察することは困難になるかもしれません。
また、近年ではサルによる雛の捕食や、カラスによる卵の捕食なども問題になっています。
そうした危機的な状況を打開すべく、環境省が力をいれて保全活動を行なっており、成果が期待されています。
ライチョウが心配なく生活できる社会を構築していきたいですね。
あなたも保全に貢献してみる?
2024年現在、ライチョウの保全活動に関する支援がクラウドファンディングの形式で募集されています。
野外調査や動物園での飼育など、支援金はさまざまな用途で使用されるとか。
ぜひ、保全へあなたも貢献してみませんか?
信濃毎日新聞社のクラウドファンディングページ(リンク)をちぇっくしてみてください!
参考文献
・Hotta et al. (2019) Modeling future wildlife habitat suitability: serious climate change impacts on the potential distribution of the Rock Ptarmigan Lagopus muta japonica in Japan’s northern Alps. BMC Ecology 19: 23
・Kobayashi et al (2019). Role of coprophagy in the cecal microbiome development of an herbivorous bird Japanese rock ptarmigan. Journal of Veterinary Medical Science 81: 1389-1399.
・Nakamura & Nakamura (1995) Birds life in Japan with color pictures, birds of mountain, woodland and field. Hoikusha K.K., Osaka.
・The Cornell Lab of Ornithology (2023) Birds of the world.
・IUCN (2023) The IUCN red list of threatened species
・大橋 (2003) 鳥の名前. 東京書籍. 東京.
・中村・中村 (1995) 原色日本野鳥生態図鑑 陸鳥編. 保育社, 東京.
・中村 (2007). ライチョウ Lagopus mutus japonicus. 日本鳥学会誌, 56: 93-114.
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