2023年の冬は、数年ぶりにイスカやベニヒワの「当たり年」になりました。
各地で多数の個体が観察され、イスカの群れのなかにナキイスカを見つけたなんていう報告も多くありますね。
ではどのような理由で「当たり年」そして「外れ年」は決まっているのでしょうか?
この記事では、イスカ・ベニヒワ・レンジャクの個体数を決めるメカニズムに迫ります。
興味のある項目を目次から飛んでくださいね。
北から大群がやってくる?
極域タイガで生きる鳥たち
まずは冬になると年によって大量にやってくる鳥たちは、夏のあいだどこにいるのでしょうか?
その答えは、ロシアなどに広がる広大な針葉樹林(タイガ)です。
夏は涼しく過ごしやすいでしょうが、冬になれば話は別です。気温は氷点下20度を下回り、虫たちは眠りにつき、餌といえば針葉樹の種子くらいになります。
ベニヒワは氷点下50度でも生存することができますが、それは餌があればの話。低温に加えて空腹というのは、人も鳥も命に関わります。
南方への大移動
そんな真冬、数年ごとに、特定の条件が揃うことで鳥たちは一斉に南へと移動を行います。
そしてその南方への移動は、ベニヒワ・イスカなど複数種にわたり同調することがわかっています。
つまり、ベニヒワの大当たりの年は、イスカの個体数も多い可能性が高いのです。
では、どのような理由で鳥たちは南へと移動するのでしょうか?
どんな要因が大切なの?
複数の要因が絡み合う
そんな疑問に対して、ユタ大学のストロング博士たちの研究グループは、マツノキヒワに注目して研究を行いました。
マツノキヒワは「アメリカ大陸のベニヒワ」とも言える鳥であり、数年に1度カナダからアメリカへの南方向の大移動を行います。
1989年から2012年の北アメリカ大陸で得られた大規模データを解析したところ、マツノキヒワが南へと大移動する理由がわかりました。
その条件とは、① 前年の降水量が少ない結果として、マツノキヒワの餌となる針葉樹の実りが乏しくなる ことに加え、
② 当年の気温が平年よりも大幅に低い ことであり、2つの条件が揃うことで鳥の南への大移動が起きることがわかりました。
気候変動と野鳥観察のロマン
さらに、2023年、ウィスコンシン大学マディソン校のウィディック博士らが、対象種を拡大した新たな研究を発表しました。
過去60年間に渡るデータから、タイガに住むベニヒワやイスカを含む鳥類9種の分布の変化や、南への大移動を調べました。
その結果、特に2010年代には鳥たちの分布域は北へとシフトし、さらに南への大移動も起こりにくくなっていたことがわかったのです。
さらにさらに、2010年代には、イスカやベニヒワなどの南への移動の同調性が失われていることもわかりました。
ベニヒワが多い年にイスカも多い という傾向が崩れ始めています。
その理由については、未だ議論が続いています。
気候変動が進行すれば、思いがけないベニヒワやイスカとの出会える機会は減少していく可能性がありそうです。
参考文献
・Strong et al. (2015) Climatic dipoles drive two principal modes of North American boreal bird irruption. PNAS 112: E2795-E2802.
・Widick et al. (2023) Poleward shifts and altered periodicity in boreal bird irruptions over six decades. J Anim Ecol
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