海を安易と飛び越える鳥の仲間の1つとして、アジサシ類があげれるでしょう。
長く尖った翼をもつアジサシ類は、主に海や湖などの水辺を生息地としている種が多く、日本でも数種を観察することができます。
そんなアジサシ類のなかで、見ることができると嬉しい1種はクロハラアジサシでしょう。
市販されている図鑑には識別点などは書いてありますが、詳しい生態についての記載は乏しいのが現状です。
今回はそんなクロハラアジサシの生態を深掘りしていきます。
この記事ではクロハラアジサシの世界迫っていきます。
興味のある項目を目次から飛んでくださいね。
クロハラアジサシの生態:入門編
クロハラアジサシ | Whiskered Tern | Chlidonias hybridus | チドリ目カモメ科クロハラアジサシ属
レア度:★★★★☆☆☆☆☆☆(4/10:場所・季節が適切でも、あまり個体数が多くない)
見られる季節:春と秋の渡りシーズン(特に秋)
見られる場所:日本全国の淡水域
見られる環境:沼地
餌:動物食(主に昆虫を好む)
クロハラアジサシは、名前の通りお腹が黒色のアジサシです。
しかしそのような、特徴的な姿になるのは繁殖期の成鳥のみで、冬羽や幼鳥の識別の難易度は高めです。
海岸線でみられることは稀で、主に淡水域を好みます。
主に観察する場面は飛び回っている場面であり、飛行する昆虫などを食べて生活しています。
また、クロハラアジサシは日本を渡り時期に通過する個体が多く、渡りシーズンに見る機会が多くなります。
日本では、特に秋の渡の時期(8–10月)に個体数が多く、幼鳥や冬羽になりかけたような姿を目撃することも多いため、知識をつけておいて損はないでしょう。
クロハラアジサシの生態
とてもひろい分布域
クロハラアジサシはユーラシア大陸、アフリカ大陸、オーストラリア大陸など分布域がとても広い鳥類です(IUCN分布図)。
一方で渡りの途中で立ち寄ったりする場所である日本は、主要な分布域とは言えないかもしれません。
また本州よりも、沖縄や離島といった場所で観察する機会が多いことも知られています。渡りのルート上に位置するのでしょうね
クロハラアジサシを探す場合には、沼地や水田などを探してみると良いでしょう。
実際にクロハラアジサシは、日本人バードウォッチャーからは「沼アジサシ」と呼ばれるグループであり、海辺よりも沼や湖などの淡水域を好むのです。
シギ・チドリを探していると、出くわすことがありますね。
意外な餌とは?
アジサシ類と聞くと、魚が主要な餌であるようなイメージを持つかもしれません。
しかし、クロハラアジサシの主要な餌は昆虫です。一例によれば餌の65%が昆虫を含む無脊椎動物だとか。特に甲虫の仲間を好むようです。
またカエルなども食べるようですし、もちろん小魚も餌の1つです。
水田で飛び回る姿を見ていると、トンボやバッタ、チョウなどを食べている様子が観察できるでしょう。
水のうえの巣
クロハラアジサシは、ハスなどの浮草のうえに巣材を重ねて巣を作ります。
浮草はすぐに沈んでしまうため、ねこをはじめとする中型哺乳類といった捕食者を寄せ付けません。
ユニークなその生態が、繁殖成功度を高めているのでしょう。オーストラリアで行われた研究によれば、繁殖成功度は6割を超えるとか。すごいですね。
6割というのは、他の鳥類と比較しても相当に高いです。
全世界での個体数
クロハラアジサシは鳥類に関する研究が盛んなヨーロッパではかなり見られるアジサシ類であるためか、個体数の推定が行われています。
全世界では荒い推定ながら、300,000–1,500,000が生存していると推定されています。
特にヨーロッパと中国の繁殖個体群は大きいことが知られており、中国における個体数は、日本における観察頻度にも直結すると予想できます。
繁殖がうまくいってそうですもんねぇ…。
似たアジサシとの見分け方
日本では、同じクロハラアジサシ属に分類される酷似した2種(ハジロクロハラアジサシとハシグロクロハラアジサシ)を観察することができます。体型は大きな識別のヒントになります。
体の大きさ
ハジロクロハラアジサシ(23cm)<ハシグロクロハラアジサシ(23cm-28cm)<<クロハラアジサシ(33–36cm)
嘴の太さ
ハシグロクロハラアジサシ(細長い)<ハジロクロハラアジサシ<クロハラアジサシ(太い)
また繁殖期には、成鳥の体色は識別点です。
特に類似する2種は顔の羽がすべて真っ黒になるのに対し、クロハラアジサシは頬に白い色が残ります。さらに嘴が赤いのも他2種との識別点です。
最後に、幼鳥や冬羽の識別は非常に困難ですが、以下の点が3種を識別するヒントです。上の点も加味し、総合的な判断が必要です。
腰の色
クロハラアジサシ(のっぺりした淡墨色)、ハジロクロハラアジサシ(白)、ハシグロクロハラアジサシ(青味のある灰色)
頭の暗色模様
クロハラアジサシ(かなりぼやける傾向)、ハジロクロハラアジサシとハシグロクロハラアジサシ(黒っぽくてはっきりする傾向)
翼の前縁
クロハラアジサシ(白っぽい)、ハジロクロハラアジサシとハシグロクロハラアジサシ(灰ー黒っぽい)
言い方を変えれば、識別が難しく、十分な知識と経験や、
観察の条件が整っていることが必要とも言えるでしょう。
観察あるのみ!ですね。
鳴き声
鳴き声は重要な識別点です。
クロハラアジサシは濁って、すこし低い声で「キョッ」「ケー」「ゲー」といった具合に鳴きます。
ハジロクロハラは「ケー」や「ケリッ」といった声で、クロハラアジサシよりも声が高いです。
ハシグロクロハラは、「キーキッ」「キリッ」といった声で、鋭く、カモメ類のような声です。
鳥博士のメモ
将来のクロハラアジサシに期待??
日本では飛んでいる様子や、休息しているシーンを見ることがほとんどであるクロハラアジサシは、とてもユニークな生態をもつ種です。
IUCNによるデータでは、個体群は現在も安定しているとされており、現在の急速に変化する環境にも対応できている可能性が高いでしょう。
中国東部一帯や、ロシア東部と、日本海をはさんだ大陸側一帯が繁殖地になっています。
もしかすると、近い将来日本にも繁殖地ができるかもしれません(個人的な感想)。期待です。
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