春や秋になると、干潟にはさまざまなシギ・チドリ類が渡来します。
珍しい種から個体数が多い種までさまざまですが、観察する場面は主に餌を探している場面かもしれません。
多くのシギやチドリたちにとって、日本は休憩場所といった具合で、渡りの時期の中継地点でしかありません。
今回はそんなシギの1種であるキアシシギの生態を、1年間まるごと見ていくことにましょう。
キアシシギの生態と特徴:入門編
キアシシギ | Grey-tailed Tattler | Heteroscelus brevipes | チドリ目シギ科キアシシギ属
レア度:☆☆☆☆☆☆☆★★★(3/10:適切な時期に自然がある場所で探すと見つかる)
見られる季節:春・秋
見られる場所:日本全国の水辺
見られる環境:干潟、河口、水田でよく見られる
餌:動物食
全長は25cmで、黄色い足が特徴ですが、ほかにも黄色い足のシギはたくさんいるので識別点にはなりません。
黄色い足をしている他のシギに比べて、背中の斑点が少ない(一様に灰色っぽい)のが特徴です。
オスとメスは同色で、メスの方が少し大きいですが野外ではほとんどわからないでしょう。
日本では主に春と秋の渡りの最中に見られる旅鳥です。
トウネンやメダイチドリなどに比べると個体数は少ないですが、決して珍しい種ではありません。
生息場所は海岸沿いに限らず、水田などでも見られます。
キアシシギの生態
繁殖はロシア
キアシシギの繁殖地は、ロシア北部のいわゆる「ツンドラ」です。
ツンドラはコケの仲間や地衣類が地面を覆う一方で、樹木が生えないような環境です。
加えて、樹木がところどころに生える「タイガ」と呼ばれる環境でも繁殖することがわかっており、ときに標高1,800mでも繁殖します。
日本で観察するキアシシギは主に砂地や泥地に生息しており、その様子からは想像できないような環境を繁殖期には利用しているのです。
卵数は4個で、オスやメスが抱卵に貢献すると考えられています。
越冬地はオーストラリア周辺
キアシシギの越冬地は南半球、オーストラリアからマレー半島にかけてです。
最も北の越冬地は台湾ですから、もしかすると南西諸島では越冬することがあるかもしれません。
越冬場所としては海沿いの干潟などを特に好みます。渡りの時期に見られる姿のようですね。
ただし、海藻が豊富にあるような場所を特に好み、そのような場所近くの浜辺で餌を探すようです。
またねぐらはマングローブの林などにとります。越冬地や繁殖地では樹木も頻繁につかうシギなのです。
日本は通過地点
日本列島はキアシシギの渡り経路の1つです。
といっても、キアシシギのオーストラリアからロシアに至る渡りのルートは多岐にわたります。
イメージしやすいのは、オーストラリア → フィリピン → 台湾 → 沖縄 → 本州 → 北海道 → ロシア というルートでしょう。
ほかの代表的なルートとしては、オーストラリア → フィリピン → 台湾 → 中国東部 → ロシア というルートもあります。
一方で、日本で見られる個体数はキアシシギは春の渡りの方が秋の渡りよりも多いという考え方もありますから、
もしかすると春と秋で渡りルートは異なるのかもしれません。
餌は多岐にわたる
キアシシギの餌は、主にゴカイなどの環形動物や昆虫、カニ、小型のイカなどの軟体動物などですが、ときに魚も食べます。
泥のついた餌は水辺にもっていって、洗ってから食べます。動きが早い獲物は走って捉えたりと、細かい行動は非常に可愛らしいです。
絶滅危惧種としてのキアシシギ
キアシシギの個体数は現在減少を続けていると考えられており、
IUCNはキアシシギを準絶滅危惧(現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種)として指定しています。
なぜ、キアシシギは絶滅の危機に直面しているのでしょうか?
国際問題との密接な関係…。
最も影響が大きいと考えられているのは、工業化です。
キアシシギの渡りルートのうち、日本の海岸部、中国の海岸部、マレーシアの海岸部などは、
近年どんどんと工業化が進められています。そう、餌場や休憩場所がなくなっているのです。
また南シナ海周辺の海辺や離島なども工業化・干潟の消滅が続いていることも深刻な原因の1つなのだとか。
地球規模で移動するような生物の保全は非常に難しいですね。
類似した種との識別点
酷似するメリケンキアシシギとの識別は経験と知識が必要です。
メリケンキアシシギは主に北アメリカ大陸に生息しているシギです(メリケンは、アメリカンがなまった語です)。
しかし、日本は両種の分布する地域であるため(メリケンキアシシギは珍しい)識別点を整理しておきましょう。
キアシシギ | メリケンキアシシギ | ||
雰囲気 | 鼻孔の溝 | 嘴の半分以下 | 嘴の半分よりも長い |
初列風切の突出 | 突出しないか、なし | 変異が多いが、突出が長い個体が多い | |
嘴 | 根本が太い 根本の淡色部が広い | 全体的に細い嘴 根本の淡色部はキアシよりも小さい | |
羽衣 | 全身の羽 | 褐色味のある灰色 | 暗色の強い灰色 |
眉 | 目のうしろから嘴に向かって伸び、 つながり眉毛になる場合がある | 目より前方(嘴側)にしかない個体が多い | |
背中(幼鳥) | 肩羽の縁に斑点が目立つ | 肩羽の縁の模様は狭く、斑点が目立たない | |
脇腹 | 白っぽい灰色 | 褐色味のある灰色 | |
下面(繁殖期) | 脇腹あたりしか灰色っぽくない | 全体的に灰色っぽい | |
鳴き声 | ※個人的に怪しい | ピュール ピュール(1音ずつ) | ピューピューピュー(繋がったような音で) |
鳴き声
ピュー ピュー ピュー といった具合に澄んだ声で鳴きます。
それぞれの音がはっきりと発音されているような音の鳴き声です。
一方でメリケンキアシシギは、音を繋げて鳴いているような音に聞こえます。
と言われていますが、結構鳴き方にバリエーションがあるので個人的にはあまりあてにならないような気もします。
鳥博士のメモ
日本でみられるシギやチドリの仲間が、渡りの時期以外になにをしているのかを詳しく調べると、
渡りの時期には見られない意外な生態を知ることができるのです。
海辺の工業化はしばらくは続くでしょうから、個体数の減少が心配ですね。
コメント