すこし茂った草原で賑やかにさえずるセッカは、夏の風物詩とも言えます。
非常に声は大きいセッカですが、声の主を探り当てるとその体の小ささに驚くことでしょう。
とても小さく、すばしっこく、また可愛らしいセッカの生態を詳しく紹介していきます。
セッカの生態と特徴:入門編
セッカ | Zitting Cisticola | Cisticola juncidis | スズメ目セッカ科セッカ属
レア度:☆☆☆☆☆☆☆★★★(3/10:適切な時期に自然がある場所で探すと見つかる)
見られる季節:主に夏だが、西日本では冬も見られる。沖縄では留鳥。
見られる場所:草原や湿原
見られる環境:草丈が腰より高いくらいの茂った草原を好む
餌:動物食
全長は10–12cmで、体重は5–12gしかないとても小型のウグイスの仲間です。
全身が黄土色で、背中から尾羽にかけて暗色の斑点があり、短く少し曲がった嘴が特徴点。
日本では主に繁殖期に目立つ鳥であり、河口のやや茂った草原などで多く見られます。
なんといっても目立つ理由はその鳴き声で、繁殖期は1日を通して忙しく鳴き続けます。
主な餌は昆虫をはじめとする無脊椎動物で、1日中動き回り草原のなかで小さな虫たちを探しているのです。
そしてセッカの生活にとって非常に重要な生き物は、クモです。
というのも、セッカは葉っぱなどをクモの糸で縫い合わせて巣を作るのです。とても器用な鳥ですよね。
セッカの生態
長い繁殖期とクズな雄
セッカの繁殖期は長く、4月から9月にまで。ほかの夏鳥よりも春の渡来時期が早いのが特徴です。
その長い繁殖期のあいだ、セッカは2-3回の繁殖を行います。
1回の繁殖では4-8個の卵を13日ほど温め、生まれた雛は14日ほどで巣立ちます。
セッカの繁殖で最も変わっているのは、繁殖期のオスとメスの関係性です。
オスは巣の外壁を作り、メスがその巣を気に入って使用しはじめたら、その後の繁殖については知らんぷりなのです。
ちなみにこのオスが作る外壁は、葉をクモの糸で縫い合わせて作られます。
一夫八妻!?
オスはメスが巣に入ったあと知らんぷり。では何をしているのでしょうか?
人間で考えるとクズ男でしかないのですが、オスはさえずりを続け、新しいメスを妻に迎え入れようとするのです。
そのために、セッカのオスは自分の縄張りのなかに洋梨ほどの大きさの”巣の外壁”を作り出すことが知られています。なんと、多くて20個近くも作ります。
メスはその巣の外壁を気にいると交尾を許し、その後”巣の内側”をせっせと1羽で作ります。
多い場合では、1羽のオスの縄張りのなかで8羽ものメスが繁殖することもあるとか。
そのようなモテる雄がいる一方で、メスとつがいになることができない”あぶれ雄”も非常に多くいる(雄の約30%)のがセッカの繁殖の特徴なのです。なんとも悲しい…。
生まれてすぐに繁殖する子供たち
1シーズンで3回の繁殖をするセッカたち。
春先に生まれたセッカの子供も、夏頃にはもう立派な体の大きさになります。
そして、その年生まれの子供たちは、夏には子供を作れるようになるのです。
なぜ子供が繁殖を急ぐのかの理由を考えてみると、それはセッカの繁殖が失敗する確率が高いことが挙げられるかもしれません。
場所によりますが、日本での記録では30%しか繁殖に成功しない(子供を巣立たせられない)のだとか。その原因はヘビなどによる捕食です。
それゆえ、生まれてから寿命を全うするあいだに、できる限り繁殖をしておいた方が良いのでしょう。
複雑な繁殖期の関係
ちなみに、1つの縄張りのなかにいる複数のメスたちの関係はどうなのでしょうか?
実は、同じ縄張り内のメスはお互いを攻撃するわけでもなく、干渉し合わないです。
またメスたちはあるオスにこだわって繁殖するわけではなく、1回目の繁殖が終わると、また別のオスの縄張りをふらっと訪れ、そのまま繁殖してしまうのだとか。
一夫一妻が基本である人間の感覚からすると、その関係の希薄さに同情してしまいそうなものですが
限られた草原という場所で多くの健康な子供を残すための進化の結果獲得された意味のある生態なのです。
セッカの分布
セッカの分布は広く、アフリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなどなど、ユーラシア大陸、アフリカ大陸、オーストラリア大陸にかけて広く分布します。
シマウマやライオンがいる場所や、カンガルーの生息地でも繁殖しているのです。なんとも不思議ですね。
世界中の多くの場所では留鳥ですが、日本の本州北部では夏にしか見られません。
一方で冬には大阪から沖縄にかけて個体数が増えるように感じますから、本州北部からそれらの地域に渡っているのでしょう。
セッカは冬はどこにいるのか
セッカは冬、見つけにくくなります。
それもそのはず、夏には騒がしくさえずっていましたが、冬は茂みのなかで大人しくひっそりと暮らしています。
冬には大阪から沖縄にかけた草原のなかで、日々昆虫を探しているのです。
また水田わきのあまり草が茂っていないような場所にも冬は出現するように感じます。
名前の由来
「セッカ」というなんとも変わった名前は漢字で書くと「雪加」となります。
鳴き声が由来だと言われていますが、その由来について詳細は明らかになっていません。
現在では「チャッチャッ」とカタカナで表記されるその鳴き声が、昔は「セッカセッカ」だったのでしょうか?
また大昔には「やちこ(谷地子)」とも呼ばれていましたが、これは湿った草原にいる小さい鳥という意味なんだとか。
鳴き声
ヒッヒ ヒッヒ ヒッヒ チャッチャ チャッチャ チャッチャ と、リズムをつけてさえずります。
囀りは茂みの先端やなかで行われることもありますが、頻繁に飛びながらさえずります。
特に日の出から10時頃までの暑くなる前の時間帯に盛んに飛翔さえずりを行うと感じます。
地鳴きはちょっとベタついた声で「チュゥ」と鳴きます。
鳥博士のメモ
日本でもたくさんの個体が見られるセッカですが、その個体数は現在世界的に見ても増加傾向にあるとか。
気候変動といった変化や、草原が減っている現代になぜセッカが増えているのか気になりますね。
今回詳しく紹介したセッカは、その生態についての研究が日本で特に盛んに行われてきた鳥です。
日本語で読める文献も多いので、ぜひ気になる方は論文や書籍からもっと詳しい内容を学んでみてください。
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