初夏の森林で一際目立つコバルトブルーの体色と、日本でも有数の美声をもつ華のある鳥といえば、オオルリです。
その美しさから孤高の鳥のような印象を持たれる方もいるかもしれませんが、日本の森林ではそれほど少ない鳥ではありません。
日本に低地の森林で重要な役割を担う鳥とも言えるそんなオオルリの生態を詳しくご紹介します。

この記事では鳥の研究で博士号を取得したトリハカセが、
日本を代表する野鳥オオルリの知られざる生態に迫ります。
興味のある項目を目次から選んでくださいね。
オオルリの生態と特徴:入門編
オオルリ | Blue-and-white Flycatcher | Cyanoptila cyanomelana | スズメ目ヒタキ科オオルリ属
レア度:☆☆☆☆☆☆☆★★★(3/10:適切な時期に自然がある場所で探すと見つかる)
見られる季節:夏(南西諸島では主に渡りの時期のみ)
見られる場所:低地(主に標高1,500m以下)の森林
見られる環境:渓流沿いで特に個体数が多い
餌:昆虫食
オオルリは全長は16–17cmのスズメよりも少しだけ大きな小鳥です。
体重はオスで25gで、雌雄の大きさの差を野外で認識することは難しいでしょう。
オスの特徴は光沢のあるコバルトブルーの体色で、日本では識別を間違う類似種はコルリくらいです。
見慣れてしまえば間違うことはありませんが、オオルリの喉は黒い一方、コルリは喉が白いため簡単に識別できます。
日本では夏鳥として親しまれており、7–8月には雛も目にすることができるでしょう。
どこで見つけやすい?

オオルリは渡りの時期であれば、東京や大阪の都市公園で普通に見られます。
繁殖のメインシーズンとなるとやや厳しいかもしれませんが、都市の近郊にある観光地(例えば、高尾山など)では普通に繁殖しています。
僕の個人的な感覚としては、ヤマガラやキビタキが繁殖する落葉広葉樹森で、幅4mほぼの渓流がある場所であれば、特に可能性が高いとおもいます。
キビタキよりは自然が多い深山で繁殖する傾向があると思いますので、少しの遠出は必要かもしれません。


後半で紹介する鳴き声さえ覚えてしまえば、
案外簡単に発見できます。
オオルリの特徴
地味なメス
オオルリのオスは美しい青色をしていますが、メスは非常に地味です。
メスの体色は全身が褐色味の強いベージュ色をしており、森の木々の色に溶け込みます。
問題なのは、オオルリのメスはほとんど同じ環境に生息するキビタキのメスと酷似することです。初心者にはその識別の難易度はとてつもなく高いはずです。
とても有用な識別点は以下2点で、
・オオルリのメスの喉は白色部が狭い(縦線のように見える)のに対し、キビタキのメスの喉は全体的に白いこと
・オオルリのメスは全身の色がかなり色が黒っぽく見えるのに対し、キビタキのメスは薄く黄色味の強いベージュ色をしていること
といった具合です。また若いメス(1歳のメス)についても、キビタキは体下面の模様が鱗模様に見える一方で、オオルリはべったりと灰白色の羽毛に覆われるような印象もあります。


案外キビタキメスとの識別は、慣れないと難しいです。
オオルリの生態
フライキャッチャー
オオルリの主食は昆虫です。
飛行する昆虫を空中で捕まえたり(フライキャッチする)、枝にいるイモムシをついばみで食べます。
また稀に植物の果実も食べることがあります。
果実を食べる様子を夏に観察することは珍しいですが、越冬期や秋の渡りの時期にはかなり普通に食べる様子を観察できるでしょう。
繁殖生態
オオルリは5月から7月頃にかけて繁殖します。繁殖地は日本と朝鮮半島、中国東部です。
抱卵日数は14日間で、そこから約12日間かけて雛を巣で育てます。巣立ったヒナに対しても親鳥は約2週間ほど餌を与えます。

東アジアでしか繁殖しない世界的にはレアな鳥なのです。
そして不思議な減少がこの巣で雛を育てる時期に報告されています。
それは、巣の雛や卵に天敵が迫ると、メスが巣から飛び出してさえずりを始めるのです。
その理由については明らかにされていませんが、オオルリの高周波の鳴き声を嫌う生き物がいるのでしょうか。つくづく不思議です。

青色の羽の秘密
羽に色はついていない
さて、この記事のタイトルの内容を紹介していきましょう。
まずそもそもとして、鳥の羽の色はほとんどの場合「色素」によって染められています。
例えば赤色の羽色は「カロテノイド」という色素によって羽が染められ、私たちの目に映るのです。
しかし、オオルリの羽にはその「色素」がありません。なぜ青色に見えるのでしょうか?
その理由は、オオルリの羽の微細な構造が光をうまいこと反射して青色に見せているからです。
ちょっと難しいですが、最もわかりやすい例はDVDやCDの裏面のキラキラした光です。あの光は、DVDの裏面に色素があるからではなく、微細な構造が光を反射して青色や緑色に見えるのです。
そうした色は「構造色」と言われています。オオルリの体の色がなんとなく光の差し込み具合によって変わる理由もそこからきているのです。

詳しくは公式インスタからどうぞ。
オオルリの分布
南国の鳥オオルリ
オオルリの繁殖地は日本や朝鮮半島と述べましたが、冬場はどこにいるのでしょうか。
その答えは他の多くの夏鳥と同じく、赤道直下のマレー半島で大多数が越冬します。
しかし、なんと日本からほど近い台湾でも越冬する個体がいるのです。
ということは沖縄でも?と期待がなされますが、これまでのところ毎年越冬するような記録はありません。

個体数の増減
比較的繁殖域が限られているオオルリですが、
これまでのところ絶滅の危険性はそれほど高くないと国際自然保護連合からは評価されています。個体数は安定しているようです。
その一方国内で問題になっているのは、オオルリの密猟です。
むかしからその鳴き声を楽しむという目的で飼育がなされてきましたが、現在では野鳥の飼育は違法です。
それにも関わらず未だ密漁は止むことがないのです。
私も身近で、営巣したオオルリの巣が荒らされ、その原因を詳しく調べると人が雛をさらったことがわかったといった話を聞いたことがあります。決して稀な話ではないのかもしれません。

亜種チョウセンオオルリ:玄人向け
オオルリは、主に日本で繁殖する亜種オオルリと、中国で繁殖する亜種チョウセンオオルリが知られています。
ややこしいですが、亜種チョウセンオオルリは朝鮮半島では繁殖しておらず、もっと内陸の中国周辺で繁殖する亜種であることが確かめられています(朝鮮半島で繁殖するのは亜種オオルリ)。
これまでのところ亜種チョウセンオオルリの日本国内での確実な同定結果は限られています。というのも識別が非常に難しいのです。
チョウセンオオルリのオスは、上面の青色が緑青色(verditer:ロクショウヒタキのような色)をしていることや、喉や胸の黒色部にも緑青色が見出せることから、亜種オオルリと識別されます。
チョウセンオオルリのメスは、喉の白色味が「あまり白くない」ことが識別点だとか。難しすぎます。
ちなみにここからは私見ですが、秋に日本の離島で観察するオオルリの中には色味がオオルリっぽくない個体(緑っぽい個体)が散見されます。
しかしその色の原因は羽が摩耗していたり、また一部の羽が換羽していることによって羽色が図鑑にのっている典型例と異なった可能性も高く、非常に慎重な判断が必要です。
日本ではこれまでのところ、鹿児島県の黒島で9月に確実だと考えられる記録が得られています。

日本海側の離島などで、ドキっとする個体に出会ったりします。
しかし確実な識別は、おそらく捕まえないと難しいかも…?

名前の由来
「るりちょう」というのが昔の日本におけるオオルリ(とコルリ)の名前でした。
江戸時代頃に、コルリと名前が分けられ「おおるり」という名前になったのだとか。
鳴き声
すこし低めの美しい澄んだ声で「ピーリーリーリリ、フォイピーヒリリリ」などとさえずります。
このさえずりは非常に美しく、日本3大鳴鳥に数えられています。

地鳴きはバリエーションに富みますが、基本的に「クッ クッ」といった音で鳴きます。
繁殖地や、ストレスを感じた際には他の声でなく場合があるので、姿を見つけての識別が確実でしょう。


森林生態系とオオルリ
憧れの鳥オオルリは、バードウオッチングを続けていくとその姿を見ることは案外難しくないと気づきます。
それもそのはず、オオルリは日本の低地を代表する個体数の多い繁殖鳥なのです。
それを裏付けるように、オオルリは低地の森林の生態系である役割を担っています(担わされている?)。
それはカッコウの仲間であるジュウイチの托卵先であることです。
言い換えれば、森林に生息するジュウイチは、日本の森ではたくさんのオオルリが繁殖しているからこそ、オオルリの巣に卵を託すように進化したとも言えます。
なぜならジュウイチは宿主の卵に自身の卵を似せる必要があるので、多種多様な種に托卵するわけにはいかないのです。
そんな選ばれし者オオルリの生態を知ることは、なんとなく学問への1つの入り口であるようにも感じる今日この頃です。
参考文献
・羽田 (1975) 野鳥の生活I. 築地書館, 東京.
・清棲 (1978) 日本鳥類大図鑑. 講談社, 東京.
・中村・中村 (1995) 原色日本野鳥生態図鑑 陸鳥編. 保育社, 東京.
・ピッキオ (1997) 鳥のおもしろ私生活. 主婦と生活社, 東京.
・真木・大西 (2000) 日本の野鳥590. 平凡社, 東京.
・大橋 (2003) 鳥の名前. 東京書籍. 東京.
・茂田 (2003) 日本からの亜種チョウセンオオルリ Cyanoptila cyanomelana cumatilis の確実な初記録. 山階鳥類研究所研究報告, 34: 309-313.
・Gill (2007) Ornithology third edition. W. H. Freeman, New York.
・The Cornell Lab of Ornithology (2023) Birds of the world.
・IUCN (2023) The IUCN red list of threatened species



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