伊豆諸島の御蔵島で星の光に目を凝らしながら林道を歩けば、きっと星よりも多くの鳥に出会えるはずです。
ただし出会えるのは小鳥ではなく、頭に当たったら痛そうなくらい大きなオオミズナギドリです。
なぜ彼らは、夜の林道へとやってくるのでしょうか?また、大量のオオミズナギドリと島民の関わり合いとは、どんなものなのでしょうか?
今回はオオミズナギドリの生態や、島における人間生活との関係について紹介します。
オオミズナギドリ入門編
オオミズナギドリ | Streaked shearwater | Calonectris leucomelas | ミズナギドリ目ミズナギドリ科オオミズナギドリ属
レア度:☆☆☆☆☆☆☆☆★★(2/10:身近ですこし探すと見つかる)
見られる季節:通年
見られる場所:日本全国
見られる環境:主に洋上、繁殖地の離島では島中で見られる
餌:主に動物食(魚類やイカ類など)
オオミズナギドリは体長50cm、体重500グラム、翼を広げると1.2mになる海鳥です。
陸で生きる我々人間とは異なり、オオミズナギドリはほとんどの時間を海のうえを飛びながら過ごします。
見たことないよ!という方も多いかもしれませんが、日本近海の海では最も個体数の多い海鳥でもあります。
一方その分布域は日本近海に限られ、たとえば欧州や北米などでは全く見られません。
実は海外のバードウォッチャーの憧れなんだ!
オオミズナギドリの生態
自力では飛び立てない?
オオミズナギドリは海の上で過ごすと述べましたが、夏には陸地に穴を掘って繁殖します。
海から陸に着陸する際には、空から落ちるようにして着陸する訳ですが、問題は離陸です。
羽を動かす筋肉に対して翼が長すぎるため、自力で羽ばたいて(スズメのように)地面から離陸することができないのです!
オオミズナギドリはそうした問題に対して、崖を走り下りたり、風を利用してフワッと飛び上がるのです。
なんとも不器用ですが、海の上では長い翼を生かして省エネで飛ぶことができるのです。そういった飛行はスズメには無理でしょうね。
おしどり夫婦…?
まだ寒い3月頃からオオミズナギドリは繁殖を開始します。
45–60日近くたった1つの卵を温め、子育てにも2–3ヶ月をかけます。
鳥界のなかでは特に繁殖の開始から終わりまでの期間が長いオオミズナギドリですが、毎年同じ繁殖場所に戻って来て繁殖するという特徴もあります。
そしてつがいは長期間に渡ってつがい関係を維持することがしられています。
仲が良い夫婦なんだなと感じるかもしれませんが、浮気によって生まれる子供は15%にのぼるという研究結果も得られており、この浮気による子供の割合は海鳥界で最も高い値のひとつだとか!
台風の目に向かって飛ぶ
名古屋大などが2022年に米国の科学論文誌に発表した論文によれば、
日本海で繁殖するオオミズナギドリは、台風が日本海上にやってくると、なんと台風の目に向かって飛んでいくことを明らかにしました。
日本海でオオミズナギドリが繁殖する場所は、佐渡島周辺など、日本の陸地のちかくです。
台風がやってくると、沖からそれらの島に向かって風が吹きつけることになります。
台風の目に向かって飛ぶことによって、陸地(新潟など)に吹き飛ばされてしまうことを防げるのだと論文では示唆されています。非常に面白いですね!
台風よりも陸地の方がオオミズナギドリにとっては危険なんだね!
食料としてのオオミズナギドリ
冒頭で紹介した伊豆諸島の御蔵島では、多くのオオミズナギドリが繁殖しています。
日本にあるいくつかの離島では、海鳥の乱獲で種が絶滅するなどの悲劇が引き起こされましたが、御蔵島のオオミズナギドリはその個体数はずっと維持されてきました。なぜでしょうか?
岡さんが1994年に発表した論文によれば、1700年代から1978年までの少なくとも250年間、なんと数万羽規模で毎年オオミズナギドリの捕獲が行われていたのだとか。
ただし島民はオオミズナギドリを採集するためのルールを守っており、違反した家族は3年間オオミズナギドリ猟に参加できなかったのです。資源が乏しい離島で、食料源を絶たれてしまうというのは相当に厳しかったのでしょう。
ルールとして、雛のみを採集することとし、猟をおこなう日を毎年2-3日間だけに限定したようです。
このような取り組みによって、オオミズナギドリを根絶することなく、持続可能な食料として利用を続けて来たのですね。
鳴き声
鳴き声を聞くことはまずないでしょうが、一応紹介しておくと、ピャーとかキューと聞こえるような高い声で鳴きます。
海のうえでの簡単な見分け方とは?
覚えてから海に行くと、他の鳥を見つけやすくなる!
海を望遠鏡で眺めれば分かりますが、とにかく日本の海上にはオオミズナギドリが多いです。
珍しい海鳥を探すぞ!と航路を利用した場合にも、オオミズナギドリは最も観察機会が多いこと間違いなしです。
まず、頭が白いこと、そして他のミズナギドリと比較して小さく見えないことがオオミズナギドリと認識するうえで重要なポイントです。
逆に、上記の特徴に当てはまらないミズナギドリを見つければ、それはレアな種である可能性が高まってくるわけですね。
ちなみに近年、御蔵島ではノネコ(野生化したネコ)によって親鳥や雛が食われ、個体数が減少しています。早急な対策が必要です。
コメント