オスはオレンジ色が美しく、メスはクリクリした目が魅力的で多くのバーダーを虜にしているジョウビタキ。
しかしその私生活を垣間見ると、可愛らしい姿には似合わず、無茶苦茶に好戦的だって知っていました??
この記事では可愛らしいジョウビタキの世界に迫っていきます。興味のある項目を目次から飛んでくださいね。
ジョウビタキ入門編
ジョウビタキ | Daurian Redstart | Phoenicurus auroreus | スズメ目ヒタキ科ジョウビタキ属
レア度:★★☆☆☆☆☆☆☆☆(2/10:身近ですこし探すと見つかる)
見られる季節:周年日本で見られる。
見られる場所:晩秋から初春にかけて低地で。夏には高原で。
見られる環境:最も見やすい冬には、私たちの生活圏内で越冬します。
餌:昆虫などの節足動物や果実、植物の種子など。
ジョウビタキは体長15cm、体重11–15グラムほどの小型の鳥です。
オスはオレンジ色が派手で、メスも地味ながらクリクリした目が可愛らしく、姿を覚えることは簡単でしょう。
目立つポールや枝の上で周りを見渡し、尾羽をちょこちょこと震わせる姿には多くのバーダーが心を奪われることでしょう。
日本ではこれまで冬にみられる鳥でしたが、近年は毎年のように繁殖が確認されており、周年日本で見られる鳥になりつつあります。
夏もジョウビタキを見られるなんて、贅沢だ!
ジョウビタキの生態
喧嘩上等
ジョウビタキの最も特徴的な生態は「越冬縄張り」をもつことです。しかもオスとメスが別々に。
つまり、夏までラブラブな繁殖をしていた夫婦が、真冬に隣り合う縄張りを構えた場合、生死をかけて争うライバルとなりうるのです!
なんと悲しい…。実際にジョウビタキは、隣り合ったライバルをオス、メス関係なく威嚇し、時に追いかけ、攻撃します。
こうしたバトルは冬の始まり頃には激しく、次第に縄張りの境界がはっきりと定まる12月頃になると、穏やかになります。それでも稀に隣人の縄張りに侵入し、こっそり他人の縄張り内で餌を探すことも。
そのようなバトルを通して、自分が冬を乗り切るための餌を十分確保できる餌場を死守するのです。可愛らしいジョウビタキは、非常にたくましく冬を乗り越えます。
つつましい越冬生活
では越冬期に、ジョウビタキは何を食べているのでしょう。
主な餌は、越冬している昆虫やその卵、ミミズやムカデなどの節足動物、そして植物の果実や種子です。
近年の研究では、ゾウムシなどの甲虫、ムカデ、昆虫の卵、カラスザンショウの種子、マユミの果実などを食べていた記録があります。
1日のほとんどの時間を採食に費やし、厳しい冬を乗り越えるのです。
喧嘩をして、餌場を確保することも
冬を乗り切るうえで非常に重要です。
日本の夏も好きになった??
元来日本でジョウビタキは冬鳥ですが、近年は日本で繁殖も確認されています。
2010年、長野県富士見高原で繁殖が確認されて以来、2013年に兵庫県、2014年に山口県と岡山県、2017年に広島県と、スキー場がある標高1000mほどの山間部で繁殖の記録が得られています。
私も繁殖地に行ったことがありますが、樹上から聞きなれないさえずりが聞こえた際には「なんだこの鳥は?」と混乱しました。
オオルリとは違うし、コサメビタキやサメビタキとも違う、泣き真似をしているモズとも違う… 複雑なメロディなのです。
日本国内における繁殖事例は増えていくと考えられています。今後のジョウビタキの動向に注目しましょう!
分布域
新しく日本が繁殖地になりました!という話のあとで”元来の”分布について話すのも気がひけますが…
ジョウビタキは中国東部ー日本にかけて分布します。
分布域の北半分(中国北東から東部)では夏鳥、南半分(中国南東部から日本や韓国)では冬鳥ですが、北朝鮮では通年見られます。
日本の文化とジョウビタキ
私たちが街中でジョウビタキを見ることが多いように、昔の日本人も例外ではなかったようです。
現在さまざまな鳥類の和名には「ヒタキ」という名前が付けられていますが、
この「ひたき」という言葉は、「カッカッ」という火打石を打つ音に似た鳴き声のジョウビタキに由来すると考えられています。
なお「ひたき」という名前は枕草子(1002年)で登場するのが、日本の歴史で最も古い記述だとか。清少納言も「ジョウビタキ可愛い!」と思っていたのでしょうか。
日本野鳥の会のコラムで歴史面の概説がなされています。
とても面白いのでぜひ読んでみてください。
ジョウビタキの繁殖生態
国外の繁殖地では、二次林から住宅地や田畑までさまざまな環境で繁殖します。
主な繁殖域には、標高2,000m以上の高標高域が広く含まれており、高山鳥ともみなされるようです。
カップ状の巣には、3–6個のピンク色の卵を産みます。約16日の抱卵を経て雛が孵化し、14日程の育雛期間を経て、巣立ちます。
富士見高原での観察によれば、雌雄とも親は巣立ち後の雛に給餌を行うようです。
ロシアや富士見高原での観察によれば、巣は自然林よりも人工物に作るとか。
私が観察したジョウビタキの巣も、
ペンションにありました。なぜ人工物を好むの?!
鳴き声
越冬期に聞く地鳴きは「ヒッヒッ」「カッカッ」です。覚えれば、姿を見つけるのは容易です。
また繁殖地では、思ったよりも(!)可憐なさえずりを聞くことができるかもしれません。
日本の森のなかでは聞かない声ですから、ちょっとビックリするかもしれません。
科学的な新規性?!
今後の研究成果が楽しみです!
ジョウビタキは日本を新たな繁殖地として選んだようです。
そして毎年のように、繁殖する場所を拡大しているようですが、果たしてその新たな繁殖地にいる個体は、日本で生まれたのでしょうか?
それとも、渡りを止めた大陸で生まれた個体なのでしょうか?
渡りを止めたことで、翼の長さや生態などになにか変化(進化)があったのでしょうか?
日本で繁殖し始めたジョウビタキは、生態学者や進化学者に面白い研究テーマを提供するでしょう!
参考文献
・Nakamura & Nakamura (1995) Birds life in Japan with color pictures, birds of mountain, woodland and field. Hoikusha K.K., Osaka.
・The Cornell Lab of Ornithology (2023) Birds of the world.
・IUCN (2023) The IUCN red list of threatened species
・上田 (2014) ジョウビタキ繁殖行動の観察. やまぐち野鳥だより 234: 5.
・上野ほか (2017) 広島県におけるジョウビタキの繁殖初確認. 高原の自然史 17: 35-37.
・大橋 (2003) 鳥の名前. 東京書籍. 東京.
・林・山路 (2014) 八ヶ岳周辺におけるジョウビタキの繁殖と定着化. 日鳥学誌 63: 311-316.
・ヴァルチュク (1994) 極東ロシアのジョウビタキの繁殖. 野鳥 575: 10.
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