春や秋に干潟を眺めれば、渡り途中のシギ・チドリが見つかるでしょう。
そのなかでも特に華美で、個体数も多く普通に見られる1種がメダイチドリです。今回は意外に知らない、メダイチドリの生態や特徴に迫ります。
この記事では王道シギチの1種メダイチドリに迫っていきます。興味のある項目を目次から選んでくださいね。
メダイチドリ入門編
メダイチドリ | Lesser Sand Plover | Charadrius mongolus | チドリ目チドリ科チドリ属
レア度:★★★☆☆☆☆☆☆☆(3/10:適切な時期に自然がある場所で探すと見つかる)
見られる季節:春と秋の渡り時期
見られる場所:主に海辺の干潟
見られる環境:淡水より海水
餌:干潟に生息する節足動物や軟体動物
メダイチドリは全長18–21 cm、体重39–110 gのやや小型のチドリ類です。
繁殖羽はオレンジ色で非常に目立ち、また群れで移動することから干潟では特に目立つ種でしょう。
2亜種が知られており、日本で見られる亜種mongolusは、ロシアのシベリアなどで繁殖し、オーストラリアなどで越冬します。日本は渡りの際の中継地です。
春・秋のどちらのシーズンも多くの個体が日本を通過します。本種を見て季節を感じるバーダーも多いのではないでしょうか。
メダイチドリの生態
太平洋西岸とインド洋を支配
メダイチドリは太平洋の西側とインド洋にまたがる非常に広大な分布域をもちます。
また多くはないものの、アメリカにおいても観察記録が得られており、オレゴン州やカリフォルニア州といった西海岸で記録があるようです。
きっと日本における後述のオオメダイチドリ的な位置付けで、アメリカでは見つかると嬉しい野鳥なはずです。
繁殖はツンドラや高山で
水辺にいる印象しかないメダイチドリですが、繁殖地の環境は越冬地とは大きく異なります。
メダイチドリはシベリアなどで繁殖するグループ(個体群)はツンドラ、インドなどで繁殖するグループは高山帯などで繁殖します。
ヒマラヤ周辺では、標高5,000mを超える高山域で繁殖することもあるとか。
ちなみに繁殖地の環境はイメージと異なり、湿地的な場所ではなく、乾燥した場所でも繁殖するようです。
環境のイメージは、中東鳥類学会のページ(リンク)から写真をご覧ください。ヒバリが好きそうな環境です。
日本においてもメダイチドリは高山帯で観察されることもありますから(標本採集例もあり)、実は住みやすい環境なのかもしれません。
繁殖地は低密度?
繁殖地では、ぽつりぽつりと巣が散見されるような感じでメダイチドリは繁殖します。
基本的に卵3は個で、22–24日ほど抱卵します。孵化後は、通常オスだけが雛の世話をします。
両親ともに孵化後の雛の世話をすることもあるようですが、このような世話様式の違いが生まれる理由については未だ解明されていません。
理由がかなり気になります。
何を干潟で食べているのか
メダイチドリは、干潟に生息するカニなどの甲殻類、貝類、ゴカイなどの多毛類、水辺に生息する昆虫などが主な餌です。
またイネ科植物の種子を採食することもあるようです。
以上の知見は越冬地や、日本を渡り中継地での研究からわかったことですが、繁殖地で何を食べているかは未だわかっていないようです。
研究例があればぜひコメントから教えてください!!
絶滅の可能性
メダイチドリの個体数の推定を目指した研究はかなり様々な場所で行われています。
東アジアとオーストラリアでは、越冬期には2万から10万羽のメダイチドリがいるそうです。
それは果たして多いのか、それとも少ないのか…?日本で最も人口の少ない鳥取県ですら、50万人の人間がいるわけです。
IUCNは近い将来メダイチドリが絶滅する可能性は「低い」と評価しています。
干潟が減り続けたら、数はどんどんと減っていってしまいそうです。
メダイチドリとオオメダイチドリ
オオメダイチドリ
オオメダイチドリは渡り時期に日本で観察されることがありますが、非常に珍しいです。
その理由は非常に単純で、日本の周辺に彼らの繁殖地がないためです。ただし、シベリア周辺で繁殖しないことを除けば、オオメダイチドリとメダイチドリの分布域は非常に似通っています。
識別点は?
メダイチドリとオオメダイチドリは、羽毛の色彩やパタンが非常に似ています。
最も重要な識別点は、その形態です。Chandlerらの表現を借りれば、
オオメダチドリはダイチドリに比べて
・頭が角ばっていて(四角形にみえて)デカイ
・眼がパッチリに見える
・嘴が細長く、嘴先端上部の膨らみが小さい(⇔ メダイチドリは、嘴先端上部が膨らむ)
計測値:メダイチドリ 15-21mm, オオメダイチドリ 20-28mm
・足のピンク色味が強い
といった特徴があります。が、結構干潟で実際に観察すると、識別難易度は高いです。
メダイチドリも角度によっては、ある個体の嘴が他の個体よりも長く見えるなんてことが多発します(ほんとに)。
最も重要なことは、たくさんのメダイチドリを観察し、その形態的特徴をしっかりと覚え、来る時に備えることです。
むむむ、この個体は明らかに嘴が長いし頭が大きいぞ?!という
違和感に気づくため、日々の勉強と経験が重要です。
鳴き声
メダイチドリは、少し高い声で「フィフィフィ」だったり「ピピピ」と聞こえる声で鳴きます。飛行時に鳴くことが多いでしょうか。
また繁殖地では「耳障りな」声でなくことも知られています。
シギチ識別力トレーニングを養おう!
エイジングを楽しもう!
シギチドリ類といえば、幼鳥ー成鳥を羽の状態や色味から識別する「エイジング」を楽しむ醍醐味があります。
しかしなかなに難しい!優れた図鑑やハンドブックは多数ありますが、やはりたくさんの個体を見比べてこそ徐々に「わかってくる」ものです。
メダイチドリはそんなエイジングの楽しみに入門するうえで最適な種と言えるかもしれません。
特に秋には幼鳥の個体数も多く、ちらほら見かける成鳥との違いを間近で観察できるでしょう。
参考文献
・清棲 (1978) 日本鳥類大図鑑. 講談社, 東京.
・真木・大西 (2000) 日本の野鳥590. 平凡社, 東京.
・中村・中村雅彦 (1995) 原色日本野鳥生態図鑑 水鳥編. 保育社, 東京.
・The Cornell Lab of Ornithology (2023) Birds of the world.
・IUCN (2023) The IUCN red list of threatened species
・Chandler (2009) Shorebirds of North America, Europe, and Asia: A photographic guide. Princeton University press, New Jersey.
・Hayman et al. (1986) Shorebirds: An identification guide to the waders of the worlds. Helm, Australia.
・Aarif (2009). Some aspects of feeding ecology of the lesser sand plover Charadrius mongolus in three different zones in the Kadalundy Estuary, Kerala, South India. Podoces, 4: 100-107.
コメント