身近で見られる最も巨大な鳥、それはアオサギでしょう。
可愛い!怖い!かっこいい!と、人によって評価が大きく異なるアオサギの生態を知れば、どんな感性の人もアオサギを好きになること間違いなし?
松尾芭蕉、古代エジプト人など多くの人々を魅了してきたアオサギの生態に迫ります!
この記事では博士号をもつトリハカセが、
大食漢アオサギの興味深い生態を紹介します。
記事は結構長いので、興味のある項目を目次から選んでくださいね。
アオサギ入門編
アオサギ | Gray heron | Ardea cinerea | ペリカン目サギ科アオサギ属
レア度:★★☆☆☆☆☆☆☆☆(2/10:身近ですこし探すと見つかる)
見られる季節:周年(本州と四国)夏(北海道)冬(九州)
見られる場所:種子島以北から北海道で繁殖する。北海道以南で通年見られる。
見られる環境:水辺、農耕地など
餌:ありとあらゆる動物質の餌
アオサギの全長90–98cm、体重1-2kgとかなり大型の野鳥です。日本の身近で見られる野鳥の中では、最も大きい種の1種でしょう。
その性格は想像より獰猛であり、鳥類研究者が絶対に捕獲したがらない鳥の1種です(研究者のみなさん、そうですよね?)。
日本全国の農耕地や水辺で見られますが、春や秋の渡り時期には海辺や離島でも見られることがあります。
後半で紹介する鳴き声さえ覚えてしまえば、
案外簡単に発見できます。
アオサギの生態
広すぎる分布域
アオサギの分布域は南北アメリカ大陸、オーストラリア大陸、南極大陸以外のほぼすべての場所に広がっています。
分布図をご覧ください。砂漠や、ロシア北部などの寒冷地、ヒマラヤ山脈などの高山域を除く場所に生息していることがわかります。
国内では、北海道では繁殖期に、九州では越冬期に、それ以外の場所では通年見られる普通種です。
アフリカでは、ナイル川に沿って北方に分布域が広がります。
この事実が、ジブリと関連するとは…!!
大食漢な捕食者?
アオサギは魚しか食べなそうに見えますが、哺乳類、鳥、魚、虫など本当になんでも食べます。
これまでに記載のある驚くべき餌生物を列挙してみます。大型のコイ、シマリス、小型の齧歯類、ノウサギの子供…。
鳥も普通に食われており、カイツブリ、カワセミ、アカアシシギ、ヤツガシラ、ツバメ、カモ類の雛なども餌になるようです…。
また植物質の餌も利用するようで、さらにさらに動物の死体なども食べられるとか。餌の幅広すぎです。
ダイサギなど餌を巡るライバルもいますが、ダイサギが歩きながら餌を探す一方、アオサギは待ち伏せを多用するなどしてうまく棲み分けている可能性もあるようです(濱尾ほか 2013)。
結構普通に大型の鳥類や哺乳類を攻撃します。
越冬期に、モグラやネズミなどを食べる様子を頻繁に目撃しますね!
ルーズな夫婦関係
アオサギはコロニーで繁殖し、一夫一妻で子供を育てます。
とはいえ、夫婦関係を1年だけ保たれ、その期間にもつがい外交尾の頻度は決して低くないというちょっとルーズな鳥でもあります(人間目線で、ですが)。
日本では2月頃に繁殖期がスタートし、木の太い枝などを組み込んで大型の巣を作ります。
一腹卵数は3~5個で、抱卵は約26日、育雛には70日近くを費やします。
シビアな子育ての実態
雛の巣立ち率は結構高く60%を超えるようですが、繁殖場所(地域や国間)によってかなりばらつくようです。
繁殖失敗の原因は雛間の争いであったり、卵の捕食などが挙げられるようです。
興味深いことは、分布が広くかつ個体数も多いので、世界中で研究がなされていることです。例えば、一腹卵数も国によって大きな違いがあります。
アオサギのコロニーに侵入して、
巣を捕食するなんて結構な勇気が必要そうです。
夜に生きる
夜に空から「ギャッ」とか「ゲェ」とかいう声が聞こえることがありますが、これはほぼアオサギもしくはゴイサギです。
夜に飛んでいるのは全てゴイサギだと思っている人も多いかもしれませんがこれは誤りで、アオサギも夜にかなり採食します。
採食場所への移動時に私たちの上空を通過し、「ギャッ」と鳴き声をあげれば存在を知れるわけです。
実際に繁殖期には、1日のうち23時間を採食に費やす日もあります。また、街の灯りを利用して夜間も餌を探す「シティボーイ」もいるようです。
エジプト文明とアオサギとジブリの関係
ナイル川の氾濫と、アオサギ
紀元前3ー1世紀に古代エジプトで作られた「Tablet with the Representation of a Heron(サギの石板)」には、アオサギが掘り込まれています(ぜひリンク先で見てみてください)。
エジプト博物館の解説記事によれば、古代エジプト文明において、朝日と共に湿地に現れるアオサギは「死後の世界」への案内役としての助けを果たす生き物だと考えられていたようです。
つまり言い換えれば、現世と死後の世界を行き来できる鳥だと考えられていたのです。
古代エジプトの文明はナイル川の状況に大きく依存していたようですから、氾濫原で餌をたくみに探し、潮位に応じて餌場を変え、暗闇でも飛行するアオサギが象徴的に扱われる理由もわかる気がします。
君たちはどう生きるか?
2023年に公開されたジブリの映画「君たちはどう生きるか?」では、その宣伝ポスターに描かれた人物の姿が完全にアオサギだと話題になりました。
映画のなかの「アオサギ」の役割を知ると、その姿の理由も納得です。
それは、アオサギが主人公である眞人を異世界へ連れてくるという役割をになっていたからです。まさに、古代エジプトにおける伝説をモチーフにしているわけですね。
また、その不思議な姿と役割をなんとなくすぐに受け入れられるのは、アオサギの分布がユーラシア大陸全域に及んでおり、日本でも普通に見られることと無関係ではないでしょう。
ちなみに英語版のタイトルは「The boy and the heron(少年とヘロン)」です。ヘロンは大型のサギ類を指す言葉ですから、主役はアオサギと言って良いのかも?
生き物の生態をじっくりと観察していた古代エジプト人の自然観が、ジブリにも影響を及ぼしたともいえますね。
季節的な衣替えと、幼鳥
アオサギは雌雄が同じ色をしているため、成鳥か若鳥かの区別に限られます。
成鳥は繁殖羽と非繁殖羽とで、派手さや優美さが大きくことなります。
若鳥は頭上の色や、胸の色がくすんで見えることから、2歳齢以上の個体と区別することができます。
鳴き声
「ゲェ」とか「ギャッ」と鳴きます。ゴイサギの鳴き声と比較してみましょう。
日本の文化との関わり
アオサギの名前の由来は、青灰色の背中です。安土桃山時代以降そう呼ばれているのです。
奈良時代頃から古文書にアオサギが登場するようですが、当時は「みとさぎ」と呼ばれていたとか。
といった具合に、エジプト同様に日本人の目をも集めてきました。あの松尾芭蕉もアオサギについて俳句を詠んでいます。
昼ねぶる青鷺の身のたふとさよ(時間が止まることなく、あっという間に過ぎてゆくことを知らずに昼間から寝ている青鷺の図太さもまたすばらしい)
松尾芭蕉の気持ちがわかるバーダーも多いのでは?!
生態系のなかでの役割
エジプトの神話でアオサギは現世と死後の世界をまたいで移動する不思議な野鳥でした。
実際の自然界でも、アオサギはある境界を超えて移動し、生態系のなかで重要な役割を担っています。
それは、川で餌をとり、森のなかの繁殖コロニーに餌を運ぶという「生態系をまたいで移動し、栄養を運ぶ」役割を担っているのです(上野 2002; Ueno et al. 2006)。
アオサギはどう生きているのか?に対する答えは、生態系をまたいだ地域の自然をフルに生かして力強く生きている、なのかもしれません。
参考文献
・羽田 (1975) 続野鳥の生活. 築地書館, 東京.
・清棲 (1978) 日本鳥類大図鑑. 講談社, 東京.
・中村・中村 (1995) 原色日本野鳥生態図鑑 陸鳥編. 保育社, 東京.
・真木・大西 (2000) 日本の野鳥590. 平凡社, 東京.
・大橋 (2003) 鳥の名前. 東京書籍. 東京.
・濱尾ほか (2013) 採食環境が競合するアオサギとダイサギにおける餌生物および獲得食物量の比較. Bird Research, 9, A23-A29.
・上野 (2008) アオサギ Ardea cinerea. Bird Research News Vol.5 No.9: 4-5.
・上野ほか (2002) アオサギによる海洋から陸域への物質輸送が林床の生物群集に及ぼす影響. 月刊海洋 384: 436-441.
・The Cornell Lab of Ornithology (2023) Birds of the world.
・IUCN (2023) The IUCN red list of threatened species.
・Sawara et al (1990) Feeding activity of the Grey Heron Ardea cinerea in tidal and non-tidal environments. Jap J Orn. 39: 45–52.
・Ueno et al. (2006) Effects of material inputs by the Grey Heron Ardea cinerea on forest floor necrophaugous insects and understory plants in the breeding colony. Ornithological Science 5: 199-209.
・Tamada K (2012) Seasonal change in habitat use by Grey Herons in a rural area of western Hokkaido. Orn. Sci. 11: 95–102.
・Trivedi A (2013). Grey Heron Ardea cinerea feeding on five-striped palm squirrel Funambulus pennantii. Indian Birds. 8(6): 166.
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