生物は進化し、環境に適応し、形を変え、現在の多様性な自然を形作っています。
あのチャールズダーウィンは、生物がなぜ進化するのかを着想したことは有名ですね。
しかし、20世紀に入りダーウィンの考えを覆すような発見が得られたことは、科学者や生物学徒以外にはあまり知られていないかもしれません。
今日の記事は、そんな大発見をした最強の夫婦のお話です。
進化の楽園
みんな大好きガラパゴス諸島
今日の舞台となる場所は、ガラパゴス諸島です。
ガラパゴス諸島は、エクアドルの沖合1,000kmに浮かぶ離島で、日本からの距離は10,000kmを超えます。
この島には、南米大陸から太古にやってきて、独自の進化を遂げた生物が多数生息しています。その1つが、ダーウィンフィンチ類です。
ダーウィンフィンチとダーウィン
チャールズダーウィンは、現地でダーウィンフィンチを熱心に観察し、進化論の着想を得た…
という美談が紹介されがちですが、そんなことはありません。ダーウィンは確かにダーウィンフィンチを採集し、標本を故郷のイギリスに持ち帰りましたが、
実際にダーウィンが現地調査で注目したのはこの島に住む「マネシツグミ」と言う鳥でした。
ではなぜ、ダーウィンフィンチ、なんていう名前が有名になったのでしょうか??
ダーウィンマネシツグミ万歳、でいいじゃないか!
鳥類学者グールド
ダーウィンはイギリスに持ち帰った標本を、鳥類学者のグールドに送り、種同定を依頼したのでした。
その標本はミソサザイのような嘴の鳥、ムシクイ類のような華奢な鳥、スズメのような姿の鳥など多様でした。そのなかに、のちにダーウィンフィンチと呼ばれる鳥たちも含まれていたのです。
グールドは発見します。なんと、ミソサザイみたいな鳥も、ムシクイみたいな鳥も、スズメみたいな鳥も、同じ仲間だということに気づいたのです。
びっくり仰天です。そしてダーウィンは進化論の考えをはっきりと固めます。
ガラパゴス諸島の多様な鳥たち(ダーウィンフィンチ類)は、南米からやってきた共通の祖先から進化したんじゃないかと。
ダーウィンの考え
進化論の根拠としてガラパゴス島のフィンチ達が活躍したことから、現在ではそれらの鳥たちが「ダーウィンフィンチ」と呼ばれるようになったわけです。
進化論を提唱した書物「種の起源」は1859年に出版され、大きな論争を引き起こしました。
ただし、ダーウィンの基本的な考えとして、重要な側面があります。
それは、生物の進化は、私たち人間の一生では観測できないほどゆっくりゆっくりと進む、ということでした。
グラント夫妻、登場!
1939年、ピーター・レイモンド・グラント(以下、ピーター のちの夫)とバーバラ・ローズマリー・グラント(以下、ローズマリー のちの妻)がこの世に生を受けます。
のちに夫婦となる2人は、ダーウィンと同じイギリスの出身です。
大学を卒業後、2人はそれぞれ別々にアメリカに渡り、ブリティッシュコロンビア大学大学院の動物学科所属時に出会います。
なんとお互いが、アメリカに渡って初めて出会うイギリス人同士であり、1年の交際を経て結婚することになったのです。
まさにロマンチックとはこのこと?
グラント夫妻、ガラパゴス諸島に上陸
ピーターは博士課程で、鳥類の種間競争の研究をしていました。
その研究を発展させるために、種間競争が重要な役割を果たしていると鳥類学者デイビッド・ラックが示した野鳥、ダーウィンフィンチを研究対象をすることに決めます。
結婚に子育てと収入面で苦労はしながらも、2人で研究をしながら生活していたある日、巨額の研究費をゲットし、ついにガラパゴス諸島に上陸します。
この上陸から、グラント夫婦は37年以上にわたって、ガラパゴス諸島で毎年調査を行うことになります。
ダーウィンも予想しなかった結果とは?
グラント夫妻の調査を簡単に説明すると、ガラパゴス諸島の特定の島にいるダーウィンフィンチ(ガラパゴスフィンチ、オオガラパゴスフィンチ、コガラパゴスフィンチ)を全部捕まえて、体を計測し、個体識別をする。
翌年も、また翌年も同じことをやり続けるというもです。同じ個体を捕まえたら、翌年も生きていたことがわかります。
とんでもない調査です。どれだけ大変か想像もつきません、
干ばつの年、雨が多い年など、さまざまな年にフィンチを計測し続けました。
その結果、種子が極端に多い年には小さい嘴をもつフィンチの方が、種子が極端に少ない年には大きな嘴をもつフィンチの方が、生存率が高いことを発見しました。
自然の力(自然淘汰)に呼応し、ガラパゴスフィンチの嘴サイズが変化していることを発見したのです。
言い換えれば、グラント夫妻は、生物の進化が、人間の一生のうちに起こることを文字通り「実証」したのです。
鳥類学・生態学・進化学!
夫婦の研究を紹介した書籍「フィンチの嘴」は、野外調査や研究成果を学ぶこれ以上ない教材であるとともに、ワクワクがとまらない自然科学の素晴らしい読み物といえます。
そんなピーターとローズマリーは研究成果が評価され、2009年には「京都賞」を受賞しました。
その際の記念講演会の記録(リンク)は日本語でも読むことができ、研究成果や夫婦の人生について知る素晴らしいきっかけになるでしょう。
特に研究や人生に迷いを抱く若手研究者にとって、希望や活力となる言葉が詰まっていると感じます。ぜひ、ご一読を!!
参考文献
・Grant PR & Grant BR (2010). In Charles Darwin’s footsteps. Inamori Foundation: Kyoto Prize & Inamori Grants, Inamori Foundation (ダーウィンの志を継いで).
・ジョナサン・ワイナー(2001)フィンチの嘴―ガラパゴスで起きている種の変貌. ハヤカワ・ノンフィクション文庫, 東京.
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