一見すると地味に見えますが、じっくり観察すると実は非常に美しい鳥であるシメ。
みたことはあるけれど、それほど生態や行動を観察したことがない、という人は多そうな鳥です。
今回は、ゴツい嘴でイカついのに、実は繊細なシメの生態を紹介していきます。
この記事では鳥の研究で博士号を取得したトリハカセが、
噛まれたら痛そうなシメの生態に迫ります。
興味のある項目を目次から選んでくださいね。
シメ入門編
シメ | Hawfinch | Coccothraustes coccothraustes | スズメ目アトリ科シメ属
レア度:★★★☆☆☆☆☆☆☆(3/10:適切な時期に自然がある場所で探すと見つかる)
見られる季節:通年(主に冬)
見られる場所:夏は山岳域や北海道に少数が繁殖し、冬は低地の公園や山地で普通に見られる
見られる環境:広葉樹林を好む
餌:夏は昆虫、冬は穀物を食べる
シメの全長16–18cm、体重46–72gで、スズメ (全長13cm, 体重23g) の2-3羽分、ヒヨドリ(全長28cm, 体重60-90g)と比較してかなりずんぐりむっくりした体型をしています。
本州では、主に冬に見られる野鳥であり、都市公園などでも普通に見られます。
特徴はなんと言ってもその目立つ大きな嘴と、ベージュ色の体、短い尾羽、そして光沢のある翼(次列風切)です。
英語で言うところの「フィンチ」の仲間であり、フィンチのなかでもその嘴の大きさは目立ちます。
シメの生態
不思議すぎ?日本と欧州が主な分布域
シメの体色は日本の冬の風景にピッタリとマッチし、日本近郊にのみ住んでいるのかと思いきや、
シメはヨーロッパに広くかつ普通に分布する鳥であり、ユーラシア大陸の西端と東端(日本や中国)にひろく分布する少し不思議な鳥です。
よく見るとカザフスタンやアフガニスタンなどの中央アジアでも観察例があり、ロシア南部一帯は繁殖地になっています。
ヨーロッパに広く分布することもあり、
シメの生態などに関する研究はとても進んでいます。
日本も繁殖地の1つ
シメは国内(本州)で冬鳥だと思われがちですが、実は少数が本州で繁殖します。
その繁殖地は標高1000mを超える山岳域で、非常に低密度なので、探しに行ったとしてもなかなか見つかりません。
冬はユーラシア大陸や北海道で繁殖した多くの個体が、本州の低地へとやってきます。この時期に多くの日本人がシメを堪能できる訳です。
東京や大阪、名古屋といった都市公園でも多数が越冬します。10月頃にはやってきて、翌年の4月頃まで滞在します。
僕も中部山岳域で、
繁殖するシメを観察したことがあります。
可憐な求愛
シメはつがいの愛情表現が、人間っぽいのです。まず、オスは羽をちょっと広げて、メスにおじぎをする求愛ディスプレイを行います。
つがいの関係が深まると、2羽で嘴を触れ合わせ、きずなを確認し合います(動画50秒くらいから)。
動画内でもみられますが、求愛給餌も愛情表現の1つです。
このように、あの「ゴツイ」シメは、繊細な行動をベースに繁殖を開始していくのです。
近縁種のイカルも、複雑な愛情表現をします。
フィンチの仲間は、求愛行動が顕著なのかもしれませんね。
大きな嘴を器用につかう繁殖期
巣作りは夫婦で行い、3–5個の卵を育てます。放卵はメスが行い、11–13日間放卵します。
餌はオス・メスともに運びます。12-13日の育雛期間を経て、雛は巣立っていきます。
この際に、つがいごとにはっきりした縄張りをもつタイプと、複数つがいで同じエリアで繁殖する(ルーズコロニー)タイプがあることがわかっています。
平均した巣立ち雛数は4.4羽ですが、研究によっては繁殖に失敗するつがいの割合が高いことが示されていたりと、強そうなシメとはいえ繁殖は大変なようです。
意外に多い天敵
繁殖が失敗する主な原因は、天敵の存在です。シメの巣を襲う捕食者は、テンなどの哺乳類や猛禽類!だけではありません。
まず、モズの仲間が巣内雛を襲うことがあります。また、カラスの仲間も。このへんはイメージしやすいでしょう。
びっくりすることに、リスによる捕食の記録があるのです。シメの嘴なら小型哺乳類くらい一瞬で「しめ」ることができそうなものですが…。
大きな嘴の使い所
さて、繁殖の厳しさについて説明してきましたが、リスすらしめられない彼らの嘴は何に役立っているのでしょうか?その一番の答えは、食事です。
シメはそのどでかい嘴を使って、殻が厚く普通の鳥では食べにくい植物の種子などを食べることができます。
なんとシメの噛む力は50kgにおよびます。
僕は調査中にシメに噛まれたことがありますが、
下手なペンチで手を挟むよりはるかに痛いです。
種子以外にも、例えば繁殖期には昆虫が主な餌となり、フライキャッチなどで飛ぶ虫を捕まえることもあるのです。
雌雄で餌内容に少し差があることも知られているように、採食についての研究は大変盛んです。
ちなみに、越冬期には時に群れを作って生活しますが、過去には1200羽の群れの記録があります。ちょっとすごい迫力かもしれませんね…。
ダーウィンフィンチの研究から
太い嘴を持つ個体は、そうでない個体に比べて
はるかに大きく硬い種子を食べる効率が高いことが示されています。
姿・形の特徴
オスメスの違い
春先には違いがそれなりに見られますが、越冬期の識別は難易度高めです。
メスの方色が淡く、オスは色が濃く、全体に焦茶色味が強いことで識別できます。
2羽ならんでいると違いがわかりやすいです。
色が変わる嘴
シメの嘴色を季節的に変化させます。
冬は肌色の嘴をもつシメですが、春が近づく3月後半くらいになると徐々に嘴の色が黒くなってきます。
ホシムクドリを対象とした研究では、繁殖期が近づくと特定のホルモンの働きによって、嘴の表皮の細胞に色素が埋め込まれることで嘴の色が変化することがわかっています。
シメも、嘴の表面がぽろぽろと剥がれ落ちていくような個体は見られませんので、おそらくホシムクドリ同様の理由で、嘴の色が肌色から鉛色に変わっていくのでしょう。
案外さまざまな鳥の嘴の色は
季節的に変化します。
名前の由来
「しっ」という地鳴きをする鳥(め)で、「しめ」と呼ばれるようになったという説があるようです。
また別名として、嘴の色の特徴から「蝋嘴鳥」と呼ばれたりもします。
鳴き声
シメのさえずりは地鳴きと似たフレーズを含んだ可愛らしいものです。
ただし日本で聞くことはほぼありませんが、山間部ではチャンスがあるかもしれません。
シメの地鳴きは、「シィ」だったり「ピィ」と聞こえる金属的な音です。遠くからでも良く聞こえます。
「プチッ!」という声(嘴を叩き合わせる音ではない)も出します。地鳴きを覚えれば、冬にはすぐに発見できるでしょう。
過小評価されている?
現在野鳥の飼育は禁止されていますが、昔は日本国内でもさまざまな野鳥が飼われていました。
山階鳥類研究所でも有名な山階芳麿は自身の著書でシメを「羽色も美しくなく、さえずりも良くないから、あまり飼われていない」と評しています。
僕らは声を大にして、そんなことはないぞ!と伝えないといけませんね。
参考文献
・山階 (1934) 日本の鳥類と其生態. 梓書房, 東京.
・清棲 (1978) 日本鳥類大図鑑. 講談社, 東京.
・中村・中村 (1995) 原色日本野鳥生態図鑑 陸鳥編. 保育社, 東京.
・真木・大西 (2000) 日本の野鳥590. 平凡社, 東京.
・大橋 (2003) 鳥の名前. 東京書籍. 東京.
・The Cornell Lab of Ornithology (2023) Birds of the world.
・IUCN (2023) The IUCN red list of threatened species
・Stenhouse et al. (2023). Multi‐marker DNA metabarcoding reveals spatial and sexual variation in the diet of a scarce woodland bird. Ecology and Evolution, 13: e10089.
・Wydoski (1964) Seasonal changes in the color of starling bills. The Auk, 81: 542-550.
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