一度みたら忘れないし、識別を間違うことも難しい鳥、それがクロガモです。真っ黒な体に黄色い嘴はユニークすぎます。
観察する機会は多いですが、海でのバードウォッチングに慣れると「なんだクロガモか」とじっくり観察することを忘れてしまうかもしれません。でも、実は面白い生態をもっているのです!
この記事では博士号をもつトリハカセが、
海にたくさんいるクロガモについて紹介します。
興味のある項目を目次から選んでくださいね。
クロガモ入門編
クロガモ | Black scoter | Melanitta americana | カモ目カモ科クロガモ属
レア度:★★☆☆☆☆☆☆☆☆(2/10:身近ですこし探すと見つかる)
見られる季節:冬
見られる場所:北日本、東日本で多い(特に太平洋側)
見られる環境:海
餌:海産の脊椎動物、無脊椎動物
クロガモは全長約50cm、体重約1kgのずんぐりした体型の海に住むカモの仲間です。
海鳥を陸から望遠鏡などで眺めていると、真っ黒なかたまりが海上に浮いていて最初はびっくりした人も多いでしょう。
そしてなぜか(かなり頻繁に見られるのに)入門者用の図鑑に載っていなかったりします。地味だからですかね。
時に数千羽を超える群れとなり、日本を囲む大洋で生活する海上での「普通種」と言える種なのです。
とはいえ、じっくり観察する機会も多くないかもしれません。
クロガモの生態
大海原が生息地
クロガモは日本やアメリカの沿岸で越冬し、アラスカ西部やアリューシャン列島で繁殖します。
日本も千島列島が国土であった頃には「我が国で繁殖する(内田・榎本 1941)」との記載がありました。
東京住みの方に朗報!関東では千葉の九十九里浜が最大の越冬地です(氏原・氏原 2015)。
まあはっきりいって海沿いであればどこにでもいます。
北海道に冬に行くと、とにかく多い!
厳しい冬も、海の幸で解決!
寒い冬、(撥水性が高いとはいえ)海の上で水に濡れながら生活するのは大変そうに思えます。
大変だとは思いますが… クロガモは海の幸をむしゃむしゃと食べまくり、厳しい冬を乗り切ります。
餌メニューを見ると、そのグルメっぷりは羨ましいくらい。特に貝好きにはたまらないでしょう。
というのも、ハマグリやイタヤガイなどの二枚貝をクロガモは好んで食べるのです。
また、昆虫、エビなどの甲殻類、海草も食べます。
どうせなら炙って食べたいですね。
繁殖は高緯度で
クロガモも、繁殖時には陸にあがります。日本で見ている限り、ちょっと信じられませんが…。
営巣環境は、高緯度地域に広がるツンドラです。
また、多くの海鳥は島で繁殖することを好みますが、クロガモはどちらかというと”本土”で繁殖するとか。
ツンドラの上に作った巣に薄ピンク色の卵を4個産み、約1ヶ月抱卵し、メスが巣立ち雛を養育します。
世界中の海を渡る
日本で夏季に見られないこと同様に、クロガモは世界中で季節的な渡りを行っています。
こうした外洋で過ごす海鳥の遺伝子サンプルをとるのは、とても大変なのです!にも関わらず、クロガモを含むさまざま海ガモの系統関係が詳細に明らかになっているのです(Lavretsky et al. 2021)。
海外の鳥類学者の遺伝子サンプル収集や実験の努力が垣間見えます!
天敵は…
クロガモの捕食者については、繁殖地での記載的な研究があります。
クロガモの主な捕食者は鳥類ではシロハヤブサやワタリガラス、また哺乳類ではミンクです。
とはいえ海上でサメなどの大型の魚類や、その他の猛禽類にも捕食されることがあるのでしょう。
また、北アメリカでは人間も捕食者です。狩猟対象鳥なのです!
書く必要ある?名前の由来
名前の由来は、そのまま、黒いからクロガモです。
しかし昔は、ビロードキンクロと区別されていなかったとか。
さらに、カルガモも昔は「くろがも」と呼ばれていましたが、陸のくろがも、海のくろがもとして区別されていたようです。
鳴き声
鳴き声は「ぴぃ〜」と、弱い感じの口笛のような声で鳴きます(ひらがな表記なのがミソ)。
まあだいたいは海の遠くにいて、声を聞く機会はそんなにないですね。また、たまに「ガッ」と鳴きます。
個体数と保全と
IUCNは、クロガモの全世界での成鳥の個体数を35万から50万羽だと見積もっています。
個体数減少の原因として、先に述べた狩猟の影響だけでなく、高緯度地域での天然ガス開発なども影響を与えているとか。
本種が「普通種」でいつづけるためには、国際的な協調が不可欠なのです。
参考文献
・内田・榎本 (1941) 野鳥便覧(復刻版. 編:日本野鳥の会大阪支部). 日本野鳥の会大阪支部, 大阪.
・中村 (1988) 森と鳥と. 信濃毎日新聞社, 長野.
・中村・中村 (1995) 原色日本野鳥生態図鑑 水鳥編. 保育社, 東京.
・真木・大西 (2000) 日本の野鳥590. 平凡社, 東京.
・氏原・氏原 (2015) 日本のカモ識別図鑑. 誠文堂新光社, 東京.
・大橋 (2003) 鳥の名前. 東京書籍. 東京.
・The Cornell Lab of Ornithology (2024) Birds of the world.
・IUCN (2023) The IUCN red list of threatened species.
・Bunn and Alderfer (20) Field guide to the birds of North America. Sixth edition. National Geographic. Washington D.C.
・Lavretsky et al (2021) Phylogenomics reveals ancient and contemporary gene flow contributing to the evolutionary history of sea ducks (Tribe Mergini). Molecular Phylogenetics and Evolution, 161: 107164.
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