日本の森林に生息する最も美しい鳥類の1種であるキビタキ。
図鑑や雑誌の表紙を飾ることも多い種で、欧米のバードウォッチャーの憧れでもあり、国内でも人気が高い野鳥です。
今回はそんなキビタキの生態や好む環境、特にメスの類似種との識別点などについて概説します。
この記事ではキビタキの世界に迫っていきます。
興味のある項目を目次から選んでくださいね。
キビタキ入門編
キビタキ | Narcissus Flycatcher | Ficedula narcissinas | スズメ目ヒタキ科キビタキ属
レア度:★★★☆☆☆☆☆☆☆(3/10:適切な時期に自然がある場所で探すと見つかる)
見られる季節:初夏から初秋まで
見られる場所:九州から北海道の主に低山林
見られる環境:落葉広葉樹林、常緑針葉樹林、混交林など幅広い環境に生息する
餌:昆虫食。時々果実も食べる。
キビタキの全長13cm、体重11–12gで、体重の面だけでみるとスズメ (23g) の約半分と極めて身軽です。
日本においては一般的かつ主要な夏鳥で、本州では標高約1500m以下の幅広い低山林で繁殖します。
国内では通常のキビタキ(亜種キビタキ)のほか、琉球列島では亜種リュウキュウキビタキが見られます。
東京・大阪の大都市圏近郊でも繁殖し、渡り時期には都市公園でも観察することができます。
学名には「narcissinas」英名には「narcissus」とあります。これは日本語の「ナルシスト」とおなじで、自分に酔いしれることを意味します。
あまりに美しい姿にキビタキ自身が酔いしれているものと、国外の分類学者に想像させたのでしょうね。
どこで見つけやすい?
低地林に広く分布するとはいえ、どこを探せば良いのでしょうか?
僕の個人的な感覚としては、それなりの規模の落葉広葉樹森がある場所(ヤマガラが連続的に分布し、サンショウクイなども繁殖するような場所)だと見つけやすいです。
とはいえ、ヤマガラが通年見られる規模の緑地であれば、キビタキが繁殖初期に縄張りを主張するさえずりを行う期間があるでしょう。
また、都会の都市公園なども渡りの通過を狙うのであれば、十分観察のチャンスはあります。
後半で紹介する鳴き声さえ覚えてしまえば、
案外簡単に発見できます。
キビタキの生態
大陸スケールで見る生息地
一言で紹介するのであれば、キビタキは日本の繁殖鳥です。
その他の地域ではほとんど記録されておらず、日本に住んでいるのであればぜひとも楽しみたい野鳥と言えるでしょう。
繁殖地は日本の北海道、本州、四国、九州に及びます。国外ではロシア南東部(ウラジオストクなど)でも繁殖しますが、日本が主な繁殖地です。
越冬はフィリピンから赤道直下マレーシアやインドネシアで行います。
熱帯雨林では通年昆虫が出現しますから、冬季も昆虫を主な餌として生活しているのでしょう。
日本を訪れる海外バードウォッチャーの憧れの1種です。
2023年にはBirds of the Worldの扉絵にも写真が使われていました。
繁殖初期はメスが主体
国内低地林に4月後半に渡来したキビタキは、縄張りを構築し、つがい形成後に繁殖を行います。子育てはほぼメスのワンオペです。
巣作りはメスが主に行い、オスはメスのあとをついて回る護衛役を担いながら、巣の状態を覗いたり周囲を警戒したりし繁殖に貢献します。
巣は主に樹木のウロに作り、3-5個の卵を12-13日間温めます。放卵もメスの仕事です。
放卵中、多くの鳥ではオスからメスへの給餌が見られますが、キビタキでは一切見られません(羽田 1975)。
育ち盛りの子供を夫婦で一緒に育てる
繁殖初期、オスはもうひとつの大仕事である縄張りの警護に徹します。
縄張りへの侵入者を発見しては、侵入者のもとにすっ飛んでいき、睨み合いや追尾によって縄張りから追い出します。
その際には、飛行時に翼をぶつけ合いハチのようにブーンといった音を出したり、嘴をパチ!!と鳴らしたりします。喧嘩慣れしている感がすごいですね。
そして雛が育ってくるとメスのワンオペも崩壊し、オスも餌の運搬など子育てに参加するようになります。
その頃には夏も真っ盛り。人間が汗を流すなか、キビタキも森のなかで必死で雛を育て上げるのです。
キビタキのブゥーンという羽音が、スズメバチへの擬態なのでは?
なんて想像を膨らませるバードウォッチャーの方も多いようですね。
メスの方がアクロバット?
メスとオスでは、採食方法に若干の違いがあるようです。
その理由は、メスは巣の近くで餌を探す必要があるためです。なぜか?それは、放卵期などは餌を探す時間をとりすぎてしまうと、卵が冷えてしまうためです!
そこで、メスは巣から離れすぎない場所で、ホバリングなどを多用して葉の先端にいる虫などを捕まえるとか。
夫婦それぞれが工夫して、自身の飢えをしのいでいるんですね。
秋や冬の生態
虫ばかりを食っているイメージのキビタキですが、実りの秋には様々な植物の種子や果実も食べることが知られています。この様子は日本でも観察することができますよ。
越冬期は熱帯雨林の樹上で、昆虫や果実を食べながら生活しているものと考えられますが、詳しい生態に関する研究はありません。今後の研究が期待されます。
熱帯雨林で近縁種「マミジロキビタキ」を2月に観察した際には、
フライキャッチで盛んに飛行する昆虫を食べていました!
識別点と特徴:地味なメスと類似種
オオルリのメスとの識別
オスの識別に迷うことはないでしょうが、問題は地味なメスで、オオルリのメスとそっくりです。
両者の特に重要な識別点は、以下2点です。
ポイント1:キビタキのメスの方が、オオルリのメスよりも体のベージュ色が薄い(オオルリのメスは焦茶色)。
ポイント2:キビタキのメスは嘴下(喉)の白色部分の横幅が広いが、オオルリのメスは狭い(白い線のように見える)。
この2点を押さえて、たくさんの個体を観察したり、ネット上の写真を見比べてみましょう。
少しずつ両種の識別ができるようになるはずです。
鳴き声
樹上で美しい透き通った声でさえずり、「ピッコローピッコロー」という繰り返しフレーズが頻繁に含まれます。
この音は、コジュケイやセミの仲間ツクツクボウシの鳴き声にも例えられる鳴き声です。
また、他種(ジュウイチ)に似た鳴き声も発しますが、個人的には鳴き真似をしている訳ではなく、キビタキ固有のフレーズ(鳴き方)なのだと思っています。
ヒリリリィッや、プリッと聞こえる地鳴きをします。
日本の文化と個体数
僕も大好きな野鳥です。
キビタキの美しさに魅了されてきたのは、現代の日本人だけではありません。
なんと江戸では、その美しさ故に飼い鳥として非常に人気が高かったことがわかっているようです。
そんなキビタキですが、全世界の個体数は20,000–50,000羽と推定されています。
日本で観察する印象としてはもう少し多いかも?と思ってしまいますが、それでも数だけでみると多くありません。
個体数は現在のところ安定しており、絶滅の懸念は低いとされています。
参考文献
・羽田 (1975) 続野鳥の生活. 築地書館, 東京.
・清棲 (1978) 日本鳥類大図鑑. 講談社, 東京.
・中村・中村 (1995) 原色日本野鳥生態図鑑 陸鳥編. 保育社, 東京.
・真木・大西 (2000) 日本の野鳥590. 平凡社, 東京.
・大橋 (2003) 鳥の名前. 東京書籍. 東京.
・岡久ほか(2012)キビタキFicedula narcissinaの採餌行動の性差. 日本鳥学会誌 61: 91-99.
・The Cornell Lab of Ornithology (2023) Birds of the world.
・IUCN (2023) The IUCN red list of threatened species
・Okahisa et al. (2012) The nest sites and nest characteristics of Narcissus Flycatcher Ficedula narcissina. Ornithological Science 11: 87-94.
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