2023年、日本鳥学会は「日本鳥類目録」の最新のリストを公開しました。今回は第8版です。
前回の第7版が公開されたのが2014年、9年の時を経て分類が見直されることになったのです。
しかし、例えば今回のリストから「種」として扱われるようになったリュウキュウサンショウクイは、9年前はもちろん、もっと前から知られた存在でした。
では、なぜ今になって「種」として扱われるようになったのでしょうか?そんな疑問に迫っていきましょう。
この記事では「分類」そして「種」について
迫っていきましょう。
日頃の鳥の見方も、変わるかも?!
鳥の分類って、実は全然単純じゃない?
種って、なんだ?
目録とか分類とかの話の前に、まずは鳥の種の話からはじめましょう。
まず第一に、「別種である」と判断するのは超絶難しいのです。
超絶簡略化して話すと、「別種である」ということはすなわち「辿ってきた進化的・生態学的な歴史が違うヤツらは、互いに異なるグループに属するのだ」ということを意味します。
でも2000年代初頭頃までは、生物の進化的な歴史をそれなりに正確に知ることは難しかった(正確には、出来たけどめっちゃ高額)のです。
そういった背景から、個体の生態の違い、分布の違い、姿形の違いなどから、同種なのか別種を区別してきました。
しかし近年、分類学の黒船が世界を席巻します。それは「遺伝解析」の発展です。
遺伝子、すげぇ
遺伝子の配列を解析することで、進化的な歴史の似ている度合いがわかるようになったのです。
その結果として、分類の大改訂が行われたのが、前回の「日本鳥類目録第7版」でした。
例えばずっとタカ類の仲間だと思われていたハヤブサは、実はインコに近い仲間であることがわかったりしたのです。
現在、世界の10000種ほどの鳥類の進化的な歴史の関係(系統関係)が明らかになっています。
日本鳥類目録第7版のリストが公開される前後で、
図鑑の鳥の並び方が全然違います。
分類が変わるって、どういうこと?
ここまでの説明で挙げたように、種の遺伝的な違いを使って判断すれば、同種・別種の区別はすぐにできそうです。
でも、話はそう単純ではありません。
遺伝情報がなかったら?遺伝情報は結構異なるのに、2つの姿の違う生物が子供を作って生きていくとしたら?形と姿は似ているけれど、両者が遺伝的には大きく異なったら…?
「種」という概念
種というのがなんなのか、という考え方の1つに「生物学的種概念」というものがあります。
言い換えれば、同じ種なら交尾したら子供ができるけど、違う種なら子供ができないはず!という考え方です。
でも、すべての種のあいだで子供を作らせる実験なんて、とてもできたものじゃないですよね。しかもこの考え方では、性をもたない生物、化石の生物などは種を定義できません。
そこで「生態学的種(生態が違っていたら別種)」、「地理学的種(分布が違っていたら別種)」「系統的種(遺伝情報をもとにした系統樹上で別種か判断する)」など、いろいろな側面から種とは何か、というのが考えられてきました。
でも、どれか1つから完璧に種を分けることは不可能なのが現状です(宮下ほか 2012)。なので、様々な側面からの総合的な判断のもと、種が定義されるのです。
なにをもって「種」なのかに関する考え方も
たくさんあります。
日本の鳥類学者の奮闘
「総合的な判断」と述べましたが、これまがまた大変です。
詳細な生態や分布、過去の交雑例などのこれまでの研究の蓄積を網羅的に見直す必要があるのです。
日本に生息する全ての鳥類種や亜種に対して、専門家がいるわけではありません。また、亜種ごとの遺伝情報がよくわかっていない、なんてことはしょっちゅうです。
いろいろな人の観察結果などを統合し、どの種が別種かを、遺伝情報なども考慮し判断した結果が、目録の第8版ということになります。
「なぜ頻繁に分類がかわるのか?」への答え
端的に述べましょう。まず、第7版において、遺伝情報をもとに大幅に分類体系が変更されました。
第8版では、さらに詳細な遺伝情報や生態情報の蓄積をうけて、第7版の分類体系を調整したから と言えるかもしれません。
つまり、今後も新たな研究成果の蓄積によって、同種・別種だと判断される鳥が出てくる可能性もあることを意味します。
様々な鳥の研究ニュースに注目し、未来の図鑑の姿を想像するのも楽しいかもしれません!
これはあくまでトリハカセの私見です。
分類の検討委員などではないですので、ご了承を!
今後の分類の変化にも注目していきましょう。
参考文献
・宮下ほか (2012) 西部多様性と生態学. 朝倉書店, 東京.