生物学者は、鳥類だったり生き物を研究するロマンに溢れる職業であるイメージがある一方、ずっと野原を駆けずり回るようなイメージもあり、「謎な職業」かもしれません。
鳥類学者や生物学者になりたい!と思う若者にとっては、研究生活に関する手頃な情報を集めることは、将来の自分を考えるうえでとても大事なはず。
そんな情報を恐らく最も手頃かつ重厚に集められるのは、読み物(図鑑や教科書ではない)です!
❶ 鳥類学部門(5冊)と ❷生態・進化学部門(5冊)、そして❸番外編(1冊)に分けて紹介します!
この記事では、博士号をもつトリハカセが、
これまでに読んで面白かった読み物を紹介します。
興味のある項目を目次から選んでくださいね。
コアとする読者は高校生や大学の学部生を考えていますが、
一般の方や院生にも自信をもってオススメしたい本を選択しました。
鳥類学の読み物
鳥類学の教科書や図鑑ではなく、読み物を読もう!
生き物が大好きな学徒が大好きな本といえば、図鑑でしょう。
しかし図鑑には識別点や生態など既に解明された情報が記されていますが、研究者が解明するのは未解明の謎であり、そんな謎を探求しながら人生を送るのです。
研究者は、既にわかっていることや、未だにわかっていないことと、どのようにして向き合っているのでしょうか?
そして研究者も一人の人間です。どんな喜びを感じ、またどんな不安を抱えているのでしょうか?
そんな疑問に対して、答えを与えてくれるのは、研究者本人やサイエンスライターが書いた本です。
とはいえ図鑑も最高です。
鳥類学部門5位:フィンチの嘴(ハヤカワ文庫)
世界的に有名な鳥類学者であり進化生態学者であるグラント夫妻の研究を紹介する本です。
島中のフィンチを捕獲しまくるなど、とんでもない野外調査の実態が紹介されます。
進化の学問的な枠組みなど少々難しい箇所もありますが、1度は読むべき名著の1冊といえるでしょう。
なぜ「ダーウィンフィンチ」が進化の秘密を解き明かす鍵なのかが明らかにされます。
ただ人生的にはかなりユニークなのであまり参考にはならないかも…。
鳥類学部門4位:メジロの眼
メジロ研究の第一人者であり、クイーンズランド大学の橘川教授の著書です。
膨大な野外調査データが紹介されます。データの説明に割かれるページ数が多いの、読みやすさはちょっと低め。
メジロについての秘密を深掘りする内容ですが、その大目標は進化のルールの理解です。
著者の経験がふんだんに散りばめられた文から、研究の奥深さを感じられること間違いなしです。
鳥類学部門3位:鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ
近年の「鳥類学」が関わる書物のなかではぶっちぎりで売れた本ではないでしょうか。普通の書店で「鳥類学」という文字を見ることになるとは!
文章は非常に面白く、漫画の表現のように非常に砕けた表現もあります。
そんな砕けた表現で研究の面白さや苦労が語られ、また研究者間の関わりなどにも触れられる点が面白すぎる点でしょう。
また、研究に対して真摯な態度で向き合うことの重要性を明示しており、本のなかの「緩急」にも注目してみましょう!
鳥類学部門2位:幻の鳥オオトラツグミはキョロローンと鳴く
現在は山階鳥類研究所に所属する著者の奄美大島での研究や、現地での経験が記されています。
この本は決して表現が派手な本ではありませんが、分厚い研究データなどがわかりやすく紹介されており、特に地道な野外調査の様子が目に浮かぶような文が何よりもの魅力です。
研究は、地道な実験や野外調査調査、膨大な論文を読むことの積み重ねです。
そんな地道な努力の積み重ねから、未知の発見に至る大変さと感動、そしてやりがいを実感できるはずです。
鳥類学部門1位:ツバメのひみつ
わたしたちの身近な野鳥「ツバメ」の研究がまとめられた良書です。
この本を1位に選んだ理由は、なにもツバメについて詳しく知れるからではありません(もちろんツバメについて死ぬほど詳しく知れますが)。
それは、現在の鳥類学を推し進めるうえで不可欠な野外観察から遺伝解析までの幅広い発見を含むからです。
言い換えれば、研究に必要なマクロ(地域間比較などの広い視点)からミクロ(遺伝子など小さい視点)まで、さまざまな視点が紹介されます。
野外調査で得られた仮説を遺伝解析で検証し、さらなる発見を野外で… そんな研究の流れを疑似体験できるかもしれません。
ぜひ図などの引用文献に注目してみましょう。著者の名前(Hasegawa)がさまざまな研究で挙げられているのがわかるはずです。
生態学や進化学の読み物
鳥類学から目線を広げてみよう!
「鳥類学」というのは鳥類を対象とした学問を指しますが、
多くの研究者は生態学的な謎、進化学的な仮説、あるいは生理学的な課題の検証を目的に研究しているでしょう。
そんな広大な学問領域の課題や未解決の問題を知ることは研究者にとって非常に重要です。
鳥類を対象に、一生かけて解決を試みるような研究ができるチャンスを掴めるかもしれません!
そんな生態学・進化学といった学問に関係する著書を紹介します。
ひろい学問のなかで、鳥をつかった自分の研究を位置付ける
ことは、研究者になるうえで必須だと思います。
ここで挙げる本は全てぜひ読んでほしい、面白い本です。
生態進化部門5位:セレンゲティ・ルール
はっきり言ってかなり難しい内容ですが、トリハカセ的にはかなり好きな本です。
生理学、医学、生態学など幅広い分野に渡って「調整のメカニズム」が議論され、その普遍性が紹介されます。
なぜ生物の個体数が増え続けないのか、癌細胞は?など、野生動物を普段観察するなかではなかなか発想できないような内容で話が進みます。
生態学者「チャールズ・S・エルトン」もこの本の主役の一人です。特にエルトンが関わる章は引き込まれること間違いなしです。
生態進化部門4位:6度目の大絶滅
現在、人間は生態系のバランスを崩している、自然破壊に加担している… こんな話はよく聞くでしょう。
そんな現状を調べ、過去と比較し、メカニズムを探る。世界中の生態学者が向き合う1つの課題です。
1名のサイエンスライターが世界中の研究現場を訪れ、そんな課題と現状が非常に読みやすい文で紹介されます。
ショッキングな内容も多い本書ですが、一度読むだけで世界の見え方が大きく変わるかもしれません。
生態進化部門3位:歌うカタツムリ
生態学や進化学を大学で学んだあとであれば、この本の面白さは今回紹介する全ての本のなかでダントツで1位です。
とはいえ、進化学の基礎的な知識がそれなりに必要な点などから、この記事では3位としました。
チャールズ・ダーウィン、木村資生、グールドなど超有名科学者がたどった足跡、そして交わされた議論が情景を想像させる美しい文で紹介されます。
科学の面白さ、真実を追い求める情熱、進化学の理論の発展が濃縮された一冊です。そして、鳥学会創設者の飯島魁もわずかにですが登場します!
生態進化部門2位:ヤナギランの花咲く野辺で
アメリカのバーモンド大学教授であり、昆虫の生理学者のベルンド・ハインリッチの著書です。
この本の魅力は、研究者の人生が非常に実感しやすい文で書かれていることです。ハインリッチが考えたこと、経験したことが生き生きとした文で描かれます。
「ぼくは、手当たり次第に授粉に関する文献を読んだ」「(研究課題に対して)よく考えたら、僕はそのような実験を1つやっていた」など、研究者なら誰でも経験するであろう内容や、心の内が繊細に示されます。
また以下の文は、はじめてこの本に出会った大学学部生の頃の僕に将来への覚悟をもたせました。
「ぼくの学位ハント(博士号の取得の意味)は終わった。早急に問題を解決しなければならないというプレッシャーから、とにかく逃れることができたわけである。やましさを感じることなく思う存分自然観察ができるのだ」。
生態進化部門1位:進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語
1位は、3位「歌うカタツムリ」と同じく東北大学の千葉聡先生著の本です。
僕はこの本を読むと、どれだけ疲れていても、いますぐに研究がやりたい!という気持ちがみなぎります。
野外調査の様子が生き生きと描かれ、とくにアイデアを閃いた瞬間、とても重要な発見をしたときの興奮を一緒に経験できたと言えるほど、緻密な風景の紹介と繊細な心の描写に
あなたのページをめくる手はとまらなくなるでしょう。僕は興奮して夜眠れず、寝ずに夜通しこの本を読んだというのはこの記事だけの秘密です。
番外編
番外編 示唆部門1位:若き科学者への手紙
この本は島嶼生物学の理論的な発展や、生物多様性という概念の確立に貢献したウィルソンの著書。
高校生ではなく、卒研を間近に控えた大学生に強くオススメの本です!
研究の一般化とは?対象種をどうやって選ぶのか、研究をすすめるモチベーションとは?
そんな疑問に対して、大いなる示唆を与えてくれる良書です。また、ウィルソンの若い頃の経験なども書かれており、研究がそれなりに進んだ方も楽しめる本と言えます。
以上11冊がオススメの本でした。
たくさん本を読んで、自分だけのお気に入りを見つけてください!
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