「デーデー ポーポーポー」と耳に残りすぎる声でなく鳥、それはキジバトです。
バードウォッチングが趣味の人だけでなく、一般の人にもひろく知られた「The・ハト」とも言えます。
昔の日本人にとっての原風景にも必ず登場… しないのです!さらに、他の鳥よりもずっと寒い時期から繁殖できる不思議な生態をもっているのです!
この記事では博士号をもつトリハカセが、
意外に多才(?)なThe・ハトことキジバトについて紹介します。
興味のある項目を目次から選んでくださいね。
キジバト入門編
キジバト | Oriental turtle-dove | Streptopelia orientalis | ハト目ハト科キジバト属
レア度:★☆☆☆☆☆☆☆☆☆(1/10:身近で見られる)
見られる季節:周年
見られる場所:日本全国
見られる環境:住宅地から農耕地、森林と多岐にわたる
餌:植物の種子や実など
キジバトは全長33cm、体重170–250gと身近な鳥のなかでは最も大柄な鳥の1種です。
背中の模様がキジっぽいことがキジバトの由来ですが、キジよりもキジバトの方が見る機会が多いですね。
餌はもっぱら植物の種子や実、芽などです。ただカタツムリを食べた例などもあります。
街中だけでなく山間部にも分布する鳥であり、日本のいたるところにいる野鳥と言えるでしょう。
後半で紹介する鳴き声さえ覚えてしまえば、
案外簡単に発見できます。
キジバトの生態
分布域:極東のハト
日本では超普通種ですが、その分布は極東域に限られています。
欧州や中東などでは珍鳥です。日本鳥学会で「日本初記録!」などの記録が報告されるように、キジバトも報告の対象です。
例えばRichardson (2019, リンク) はキプロス島でのキジバトの記録を、愛のある写真で紹介しています!
ちなみにebirdのマップ(上図)の欧州に記録があるように、越冬期には稀に東アジアからぶっ飛んでいく個体がいることがわかっています。バーダーは見つけたら嬉しいでしょうね。
Richardsonの論文を見ると、日本でいうベニバトよりも
レアな鳥なのです。見つけた時は興奮しただろうなぁ…。
雑なのか神経質なのかわからない繁殖
オスは巣材の運び屋、メスは元締めです。巣を組み立てるのはメスの役割。
といいつつ巣の構造は雑そのもので、枝を重ねて巣っぽい構造を作ります。
メスはオスを連れて歩き、いい感じのスポットを紹介します。そしてメスが主体となって、巣の場所を決めるのです。
人間で言う賃貸の内見ですね!
巣は雑に作る一方で、卵を産む前にはすぐに巣を放棄してしまいます。神経質なんです。
手作りグラノーラで育つ子供
卵は2個です。約15日間の抱卵期間を経て生まれた子供は、さらに15日間植物性のミルクによって育てられます。
といっても牛乳ではなく、ピジョンミルクです。このミルクは「そのう」と呼ばれる植物をすりつぶすための臓器の内壁で、脂肪分やタンパク質を含む「ほぼ牛乳」なのです。
しかも「そのう」で潰された豆や穀物もピジョンミルクには含まれます。
ヒナは1分以上かけてピジョンミルクを飲むこともあるとか。ビップなお子様的イメージですね!
ピジョンミルクは、人間でいうグラノーラですね!
離婚しがち
自身が餌を食べられれば繁殖できるため(スズメなどは自分で食べる以外に、雛に与える虫自体が必要)、
キジバトはかなり寒い時期から繁殖を開始します。真冬でも穀物は利用できますからね。
でも、繁殖が失敗するとキジバトはつがい関係を簡単に解消します。
そして新しい相手と雑に巣をつくり、失敗したらまた新しい相手を探し… なんと1年に8回ほど繁殖する例もあるようです。インスタントな夫婦関係と言えるでしょう!
デーデーポーポー なぜ鳴く?!
その答えは縄張りの防衛にあります。オスは150m四方の縄張りを構え、侵入個体を頑張って追い出します。
侵入個体に対しては首を上下に振りながら威嚇し、時に馬乗りになって攻撃します。
キジバトの「デデー ポーポーポー」には、小鳥のさえずりと同じような機能があるのです。
スズメ目の小鳥のさえずりには、
縄張りの防衛や、メスへのアピールといった作用があります!
一生懸命生きているキジバトと縁起を結びつけるのは、非科学的だしキジバトに失礼かも?!ですね。
国内には複数亜種がいる?!
亜種リュウキュウキジバト
さて、日本にいるキジバトはみんな「普通のキジバト」だと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
沖縄県本島を含む先島諸島には、亜種リュウキュウキジバトが生息しています。
本州などにいる普通のキジバトこと亜種キジバトと比較して、亜種リュウキュウキジバトは色が全体的に濃いのが特徴です。
とはいえ、森のなかで見ると、背中の色がちょっと黒っぽいかも…?といった具合で、それほど大きな違いは感じないかもしれません。
あくまで亜種であり、種名は「キジバト」です。
ちなみにリュウキュウキジバトの鳴き声は、本州のキジバトと違いがわかりません笑
鳴き声
鳴き声は「デデー ポーポーポー」などと一度聞いたら忘れない声です。
ただし、繁殖期にはオスとメスで「プンッ!」と謎の声で鳴き合ったりします。
ちなみにさまざまなサイトでこの声の意味がわかっている!と述べていますが大嘘で、現状は詳細な実験を交えた検証はなされていません。
プンッ!という鳴き声はとても可愛いです。
昔の日本とキジバト
昔は超普通種じゃなかった?!
確かにキジバトは、平安時代などから日本人に親しまれ「やまばと」と呼ばれる身近な存在でした。でも、「いえばと」ではないのはなぜでしょう?
榎本(2024)によれば1940年頃は、キジバトは夏は山地で繁殖し、冬になると低地にやってくる鳥だ、と記されています。
そう、キジバトは通年を通して身近で見られる鳥ではなく、冬のみ身近で見られる漂鳥だったのです。現代で言うニュウナイスズメなんかがこうした生態を持ちますね。
どうして低地でも繁殖するようになったのか、
昔の人々の身近な鳥とは何だったのか、気になりますね。
現在キジバトの個体数は安定していると考えられています。実際、私たちの身近では至る所で見られます。
しかし1940年頃には個体数の減少が心配されていました。近代化が進む2020年代ですら、1940年代と比較するとキジバトを取り巻く環境は大きく良くなっていることが伺えるのです。
参考文献
・羽田 (1975) 続野鳥の生活. 築地書館, 東京.
・清棲 (1978) 日本鳥類大図鑑. 講談社, 東京.
・中村・中村 (1995) 原色日本野鳥生態図鑑 陸鳥編. 保育社, 東京.
・ピッキオ (1997) 鳥のおもしろ私生活. 主婦と生活社, 東京.
・真木・大西 (2000) 日本の野鳥590. 平凡社, 東京.
・大橋 (2003) 鳥の名前. 東京書籍. 東京.
・内田 (2019) 日本産鳥類の卵と巣. まつやま書房, 埼玉県.
・榎本 (2024) 復刻版野鳥便覧. 日本野鳥の会大阪支部, 大阪.
・村上・藤巻 (1983) 北海道十勝地方におけるキジバトの繁殖生態. Tori 31: 95–106.
・The Cornell Lab of Ornithology (2023) Birds of the world.
・IUCN (2023) The IUCN red list of threatened species
・Richardson (2019) The first record of a live Oriental Turtle Dove Streptopelia orientalis in Cyprus. Sandgrouse 41: 201–204.
・Svensson et al. (2009) Birds of Europe. Second edition. princeton, Trento.
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