鳥に馴染みのない人にとって「ゆりかもめ」とは東京を走るモノレールを指すでしょう。
しかし、鳥に馴染みがある方も「ユリカモメ」はみたことがあっても、意外に詳しい生態を知っている方は少なかったりしないでしょうか?!
実はかなり分布域が広かったり、虫を食べたりする実態、知っていますか?!
この記事では、博士号をもつトリハカセが、
意外なほどユニークな生態をもつユリカモメの生態に迫ります!
興味のある項目を目次から選んでくださいね。
ユリカモメ入門編
ユリカモメ | Black-headed Gull | Larus ridibundus | チドリ目カモメ科カモメ属
レア度:★★☆☆☆☆☆☆☆☆(2/10:身近ですこし探すと見つかる)
見られる季節:冬
見られる場所:日本全国
見られる環境:海岸、干潟、大きい湖
餌:様々な動物
ユリカモメは体長37–43cm、体重は200–300gの小型カモメ類です。
真木ら (2014) の日本の野鳥650には「日本の小型カモメのほとんどが本種」との記述があるほどに、ザ・普通種と言える鳥です。
海水と淡水の両方でみられるカモメであり、海から数キロ離れた湖などでもみられます。
姿が似る鳥としてはズグロカモメがあげられますが、ズグロカモメは体と嘴が小さく、かつ嘴が黒色(ユリカモメは夏羽であっても赤みがある)ことから識別できます。
ユリカモメの生態
実は分布が超広い
ユリカモメは昔「みやこどり」と呼ばれていたので江戸の鳥だ!日本っぽいなぁなんて思われる方もいるでしょう。
トリハカセも過去はその1人でした。しかしユリカモメの分布はユーラシア大陸の全域だけでなく、北米大陸、南米大陸、アフリカ大陸、そして稀にオーストラリア大陸でも記録がある超広域分布種なのです。
とはいえ繁殖はユーラシア大陸に限られ、それ以外のほとんどの地域が冬季の記録です。
これほどに広い分布域をもつカモメ類は日本で観察される種のなかでも稀で、ミツユビカモメ、そしてクビワカモメが良い勝負くらいです。
ここまで幅広い緯度帯に分布する鳥というのも、大変珍しいです!
渡り鳥ユリカモメ
さて、日本ではユリカモメは冬だけみられる冬鳥です。
本州では空気に涼しさを感じ始める10月頃から観察され、翌年の4月頃まで観察されます。
このような状況は東アジア全域で共通であり、繁殖地のロシアから東アジア沿岸の越冬地へと渡りを行うのです。
またユーラシア大陸の西部(つまり欧州)では、南北だけでなく、東西に移動する個体もいるとか。興味深いですね!
植生大好き!なコロニー繁殖
冬にみるユリカモメはだいたい群れており、仲間が大好きであることを感じずにはいられません。
好きなのかはさておき、繁殖期もその様相は変わりません。ほとんどの場合は数羽から数十羽で集合しコロニーで繁殖します。
水辺で生活するユリカモメですが、繁殖も水辺です。とはいえ、環境を詳細にみていくと石ころで覆われる場所や、植生の近くに巣をつくります(上の動画は典型的な営巣場所と言えそうです)。
1–3個の卵を約3週間放卵し、親鳥はその後1ヶ月間にわたって餌を与えて雛を育てます。
ちなみに育った雛は2年目以降、同じコロニーに戻って繁殖する傾向がある地元大好きな鳥なのです。
ユリカモメはパリピです。
というのも、ユリカモメは大勢のコロニーを好むのです!(Peron et al. 2010)
動くものならなんでも食べる?!
ユリカモメは(小鳥に比べて)大きめの嘴を生かし、本当に様々な餌を食べます。
カモメといえば小魚を食べていそうなものですが、ユリカモメが最も多く採食するのは昆虫類です。
東欧バルト海の研究では、餌の93%が陸上の昆虫であり、魚は3%にとどまったとか。
とはいえバルト海の研究は繁殖期のものであり、私たちが見るユリカモメの実態とは大きく異なるかもしれません。
冬には、人間が与えた餌などなど、眼につく様々な餌をとにかく食べて冬を乗り切るのです。
それなりに体も大きいですから、餌も小鳥に比べて多く必要でしょう。パンやえびせんなども食べますね!
川 イコール ユリカモメの道路?!
東京などの「大都会」はヒトに車、ビルなどユリカモメにとっては危険がいっぱいです。
ユリカモメたちはきっと、そんな危険が避けて移動できるような場所を求めているでしょう…。
そして実際に、東京都心を流れる川が、ユリカモメにとって安心できる道路として機能していることがわかってきているようです(Takeshige & Katoh 2021)。
もちろん、川はユリカモメの食事場でもある訳ですから、食べながら移動できるという点でも最高かもしれませんね!
分布域拡大中!
アフリカ大陸にいくぞ!
大げさなではなく全世界で見られるとも言えるユリカモメですが、その分布域を近年拡大しています!
その場所はイベリア半島の東側(スペインの地中海沿岸)で、1960年代頃からチラホラと見られるようになり、2007年には観察された場所が40地点を超えるようになったとか。
1995年にはイベリア半島の西側まで分布域が拡大し、2002年にはアフリカ大陸にまで到達したみたいです。
ユリカモメがアフリカ大陸を制覇する日も遠くないかもしれません!
名前の由来!
ユリカモメの名前は「入り江カモメ」が由来なんだとか(大橋 2003)。
川の河口などに集まる本種の生態が、現在のユリカモメの語源となり、まさかのモノレールの名前にもなったのです。
古代の人は、生態を的確に表していますね!
また英名の「Black-headed gull(頭が黒いカモメ)」という名前は、頭部が黒くなる夏羽に由来します。
鳴き声
鳴き声は「ギューイ」とか「ギィーッ」とか、濁音まじりの高い声です。
群れでいるときは結構な声量に聞こえますね!
この動画のタイトルも「うるさい」…笑 いい動画です!
実は長生き?研究者も注目中
これまでに報告がある寿命は33年に及びます!先輩と呼ばなければならない本ブログの読者の方も多いのではないでしょうか…?
そんな想像より長寿な (?) ユリカモメの生態や進化には、国内外の多くの研究者が注目しています。
Googleの論文を検索できる「Google Scholar」で「”black-headed gull”」と検索すると、ヒットする文献の数は12,900件もあります!!
タイトルに「”black-headed gull”」という語が入っている論文の数は440件ですが、多くの研究者にとってそれなりに馴染みがある鳥とも言えるのかもしれません。
面白い研究があります。孵化したユリカモメの雛は、みんなで一緒に大声で鳴くことによって、親鳥から多くの餌を吐き出させるのだとか(Mathevon & Charrier 2004)!面白すぎる!
ユリカモメの非常に面白い記事は、ユリカモメ研究者のnoteです。
ぜひユリカモメに興味がある方はご一読を!
参考文献
・清棲 (1978) 日本鳥類大図鑑. 講談社, 東京.
・中村・中村 (1995) 原色日本野鳥生態図鑑 水鳥編. 保育社, 東京.
・真木・大西 (2000) 日本の野鳥590. 平凡社, 東京.
・大橋 (2003) 鳥の名前. 東京書籍. 東京.
・竹重 (2020) 川は都会の水鳥の通り道? -東京都神田川の事例-. バードリサーチニュース. 2020年8月: 2 (https://db3.bird-research.jp/news/202008-no2/).
・The Cornell Lab of Ornithology (2023) Birds of the world.
・IUCN (2023) The IUCN red list of threatened species.
・Cramp et al. (1983) The Birds of the Western Palearctic 3. Waders to Gulls. Oxford University Press, Oxford.
・Garrett & Schreiber (1984) Seabirds, an Identification Guide. Helm, London.
・Mathevon & Charrier (2004) Parent-offspring conflict and coordination of siblings in gulls. Proc R Soc Lond B 271: 145-147.
・Takeshige & Katoh (2020) Usage of urban rivers by gulls and cormorants as movement pathways in winter. Ornithol Sci 19: 187-201.
・Peron et al (2010) Breeding dispersal in black‐headed gull: the value of familiarity in a contrasted environment. J Anim Ecol 79: 317-326.
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